【学習】How to Read a Book, Mortimer J. Adler and Charles Van Doren, Touchstone, New York, 2014 (First published in 1940), 424 pages.

 学生の頃から、読了した本の題名を記録しているが、その履歴を読み返してみると、すでに読んだ本を数年後にまた読む、という事を何度か繰り返している事に気づいた。

 その中には、一度読んだだけではどうしても面白さが十分に理解できず、意図的に同じ本を読み返すケースも、もちろんある。自分の場合、1950年代から199年代にかけて活躍したSF作家アイザック・アシモフの小説が好きだが、なぜか彼の代表作で歴代SF小説の金字塔の一つに数えられる「ファウンデーション」[1]シリーズには今一つ感情移入できず、ピンとこない。舞台は、全銀河系を支配する帝国が創立されてから約1万2千年、という遠い未来で、帝国内には人類が居住している惑星が2千500万も存在し、全人口は約1京人[2]という設定。物語の最初の主人公はハリ・セルドンという数学者。

 彼が創設したPsychohistory(心理歴史学)という学問を巡り、話は展開していく。その目的は、現在起きている社会的及び経済的事象への人類の反応について、数学的手法を用いて予測し、その帰結として遠い未来起こり得る事象とその確率を導き出す事。セルドンの予測では銀河帝国の滅亡はすでに避けられない。今人類が考えるべき事はその後生じる無法状態と抗争の時代をいかにして短縮するかという事に尽きる、と彼は喝破する。一口に「短縮」と言っても、何もしなければ三万年続くと予想される無秩序な抗争状態を千年に減らし、人類にとって不幸な状態を少しでも短くする、という気の遠くなるような話だ。

 そのため、セルドンは「ファウンデーション」という10万人規模の組織を立ち上げる。その目的は、人類が蓄積してきた記憶や学問横断的な知識体系を記録した「エンサイクロペディア・ギャラクティカ」を編纂し、銀河系の主要な図書館に提供する事。そのような形で知恵が後世に継承されれば、第二の銀河系帝国の創立のための所要時間が短縮され、人類が無秩序状態に陥る期間も短くなる、という発想だ。

 セルドンはこの組織の守護と継続のために人生をささげ、その役割は彼の後継者達に受け継がれて行く。このような話の大枠だけをみると、いかにも面白そうな物語だが、自分の場合、なぜか読んでいる途中で集中力が途切れてしまう。今度こそは、と思いながら、一作目の「ファウンデーション」を数年に一度は読み返している。[3]

 このように、意図的に繰り返して読んでいる例とは別に、完全に読んだ事を忘れて数年後に同じ本を、恐らく古本屋等で買いなおして読み直しているケースがある。いつでも取り出せる知識として定着していないどころか、読んだ内容を全く覚えていない。どうすれば読書で得た知識、理解、気づきを、自分の中に定着させられるのだろうか。そのような悩みを抱えていたところ、見つけたのが、1972年に改定版が出た本書、「本の読み方」である。

 第一章で下記のように、読書の四類型についての説明があり、いきなり衝撃を受けた。

1.文字が読めて、文章が理解できる、基本的読書。小学校だけでほぼ習う読書方法。elementary reading

2.内容の概略を掴むための、サラッと読み。inspectional reading, skimming

3.本の内容を深く理解し、自分の物にするための、分析的読書。本書はこの類型を最も理想的な読書だとしている。analytical reading

4.複数の本の分析的読書を行った上で、それらに共通するテーマを比較した上で、それらの本で扱われているとは限らない内容についての分析を行うための比較的読書。syntopical reading, comparative reading

 なお、娯楽作品を読む場合、もしくは情報を得るために読書をする 時は、類型3の分析的読書は必要ない、と本書の著者、モーティマー・J・アドラーとチャールズ・ヴァン・ドーレンは指摘している。

 自分はずっと類型1の基本的読書しかしてこなかったのではないか、とここで気づかされた。というのも、自分の読書の90パーセント以上は、娯楽作品と情報を得るための読書が占めている気がするからだ。

 さて、このような読書類型の区別とは別に、読んで内容がすぐ理解できる本か、読んでも内容が理解できない本か、の区別もある、と本書は指摘する。前者の場合、読者はその本を読む事によって、新しい情報は得られるかもしれないが、新しい理解は得られない、と著者達は説く。これまで知らなかった情報に初めて接することで新しい情報を得る事と、「新しい理解」を得る事は全く別物だという。「新しい理解」を得るには自分が理解できない内容の本、つまり自分よりその内容を深く理解している著者が書いた本を読む必要がある、との事だ。

 一度読んでみて面白く感じない本や、難解な用語が頻出する本等を読むことは避けがちだっため、これまで、内容を理解するために必死に考えて食らいついていく読書、つまり分析的読書はあまりしてこなかった気がする。

 ということで、そのような分析的読書のスキルを身に着けたい、と思い立ち本書を読み進めている。また、本書自体を分析的に読書して内容を定着させるためにも、本書の内容を章ごとに紹介してみようと思う。その際には、なるべく要点だけ抽出した上で、読んだ内容についての感想や思いついた事、疑問点などを記載していきたい。

 それでは早速、まえがきから。

How to Read a Book, Mortimer J. Adler and Charles Van Doren, Touchstone, New York, 2014 (First published in 1940), 424 pages.

まえがき

本書、「本の読み方」の初版は1940年、改訂版は1972年に発行。

1.1940年の所版発行以降の30年で起きた読書を巡る変化:

■ 読書する人の関心がフィクションからノンフィクションへと変化。

■ 読むスピードを上げ、読解力を高めることを約束する、速読術のコースへの関心が高まり。

■ 大学進学者数の増加。

■ 教育者の間で、若者に読書の仕方を教える事でアメリカの教育現場における喫緊の課題、という認識が広がった。

2.1940年から1972年の間で変化しなかった事:

■ 読書のすべての目的を達成するために望ましいのは、異なる内容ごとに、異なる、適切な速度で読むことであり、すべての内容を最速で読むことではない。

➝パスカル:「速すぎる、もしくは遅すぎる速度で読書すると、何も理解できなくなる。」

➝解決策:読書の質を高めるための変速的読書。時にはゆっくり読み、時にはより速く読む。

  • 読書方法に関する教育は主に最初の6学年の間に行われている。
  • 1972年の改訂版で追加された内容:
  • 読書の方法を巡る問題についての新たな知見。
  • 読書という雑な技術に関する、より包括的で、より順序立った分析。
  • 異なる読書方法に対する、読書の基本ルールの柔軟な適用。
  • 新たな読書のルールの発見と構築。
  • 読書の対象となり得るすべての本を「ピラミッド」として捉える方法。
  • 本書構成の変化について:

■ 四つの章のうち、初版の内容に近いのは、分析的読書について詳説した第二章のみ。

■ 構成と内容の最も基本的な違いは第一章における、読書の四類型の紹介。具体的には、基本的読書、サラッと読み、分析的読書、比較的読書。

■ 最も追加された内容が多いのは第三章における、異なる読み物に対する異なる読書アプローチについての説明。読み物の種類とは、実務的および理論的書物、想像的文学(詩歌、物語、小説、演劇)、歴史、科学、数学、社会科学と哲学、および時事ジャーナリズム、広告、レファレンス用書物等。

■ 比較的読書を扱った第四章を新規に追加。

 今回はここまで。今後内容を追加していきます。


[1] だいぶ現代風にアレンジされているようだが、近年アップルTVのシリーズ作品としても脚光を浴びた。原作の初版は1951年に出版された。 Foundation, Isaac Asimov, Bantam Books, New York, 1991 (Originally published in 1951 by Doubleday.), 296 pages. 

[2] Foundation, p.34. “…the Empire contains nearly a quintillion human beings.”

[3] 今回もパート1、46ページ目までは面白く読めたが、セルドンの後継者達に焦点が移るあたりで頓挫してしまった。

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