【学習】Leviathan, Thomas Hobbes, Penguin Books, 2017 (First published in 1651), 631 pages.

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学生の頃、国際関係論の講義の推奨読書リストによく載っていた気がする本の一つが、本書『リヴァイアサン』である。実際に読んだ事はなかったと思う。先日の紀伊国屋洋書専門店のセールでリーズナブルな値段で売っていたので、購入した。

初版の出版が17世紀なのが渋い。1980年代に初版が出ている本が20刷ぐらいまで刷られていると、おお名著か、と感動するが、さらっとfirst published in 1651と書かれていると唸ってしまう。でも、たとえば平家物語の成立は12世紀から13世紀らしいから、その程度の古さで怯んではいけないか[1]

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本文に入る前に、前書き等を読んでいて驚いたのが、推薦図書を紹介している箇所を読んだ時。“Essential for further serious work on Leviathan is Noel Malcolm’s critical edition of both the English and the Latin texts in three volumes (Clarendon Press, 2012).” とのことだが、350年以上前に出版された本にも関わらず、21世紀に入ってからも新たな知見が生まれているのか、と軽い感動を覚えた。

『リヴァイアサン』のペンギンクラシックス版である本書を編集し、ケンブリッジ大学で政治理論の教授を務めるクリストファー・ブルック[2]によると、『リバイアサン』の一番有名な箇所は、「自然な状態」として知られている概念について説明した13章である、とのこと。原著の著者、トーマス・ホッブス自身の本文中に登場する表現は「人類の自然な状態」となっており、その状態にある人の人生は「ひどく、むごく、短い」[3]ものになる、とホッブスは述べているそうだ。

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二人の個人は、共通の権威が間に介在していない時にのみ、「自然な状態」にあり、それはすなわち戦争状態である、とする。人間はお互いにほぼ平等な力を持っているため、誰も他人に従う理由はなく、競争、自己防衛、もしくは名誉のために、争いに突入する可能性がある、とのこと。二人の個人がお互いに第三者の権威に従う事を誓約すれば、自然な戦争状態から抜け出すことができるが、その権威を有する第三者にあたるsovereign「ソブリン」なる存在は誓約には縛られない、というのがホッブスの主張だそうだ。ソブリンに従う事を誓約した個人は一方的にその支配を受けるのみで、ソブリンは支配下の個人に対し責務を負わない、とのことだ。

ここで思い出すのはコロナ禍の2020年頃、シンガポールで見かけた報道。マスクを付けずに街中を歩いていたシンガポール人女性が、そのことでまわりの通行人と口論になり、自分は「ソブリン」だから警察と契約を結んでおらず、警察に従う必要はない、という趣旨の内容を主張したというニュースだった[4]。当時、このニュースを見かけた時は、そのような大胆な主張をする発想はどこから来ているのだろうか、と不思議に思ったが、本書のまえがきで紹介されている、ソブリンは社会契約に縛られない、という概念を読み、当時の事を思い出した。だからといって、その女性の主張に正当性があるとは当時も今も全く思わないが。

あともう一点気になったのは、ホッブス自身の手による本書の紹介の中で、「共同体、もしくは国家という名のリバイアサン」というくだりがあり、その中で国家元首・国家の権威を「魂」、国家の権威に従う構成員に対する褒章と罰則は「神経」などと擬人化した説明が出てくる。去年受講した地政学に関する社会人講座の中で、国家を擬人化して捉える概念の紹介があり、国家を擬人化して扱う事の背景についての詳細な説明がなく、今一つピンとこなかったが、そのような考え方はホッブスの主張を端緒とした政治学の伝統的な考え方なのだろうか。

まだ本書の前書きの部分に少し目を通しただけだが、現実主義の始祖のような内容のようで、現在の社会や国際情勢を理解するためのヒントになりそうな印象を受けるので、少しずつ読み進めていければ、と思う。


[1] 国立公文書文書館 「平家物語」https://www.archives.go.jp/exhibition/digital/heikemonogatari/contents/09.html

早稲田大学 「古典籍総合データベース 日本史年表」https://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/ga_jhistory/history.html

[2] https://www.polis.cam.ac.uk/Staff_and_Students/dr-christopher-brooke

[3] 独自訳なので、一般的な訳し方とは多分異なる。

[4] “Woman who flouted Covid-19 mask rule, claimed to be ‘sovereign’ arrested,” The Straits Times, By Toh Ting Wei, May 5, 2020, Accessed on July 11, 2024.

https://www.straitstimes.com/singapore/courts-crime/coronavirus-woman-who-claimed-to-be-sovereign-arrested-to-be-charged-in-court

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