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【映画レビュー】『デューン砂の惑星 PART2』、監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ、脚本ドゥニ・ヴィルヌーヴ、ジョン・スぺイツ、配給ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ、2024年。(Dune: Part Two, directed by Denis Villeneuve, screenplay by Denis Villeneuve and Jon Spaihts, Warner Bros. Pictures, 2024.)

【書評】 “Dune: Book One in the Dune Chronicles,” Frank Herbert, Ace Books, New York, Ace Special 25the Anniversary Edition, 1990 (Originally published by Chilton in 1965), 535 pages.

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 主人公のポール・ムアッディブ・アトレイデスが砂丘の上に仁王立ちし、仲間のフレメンの攻撃が地平線の遠方に引き起こした爆発とゆらめく炎を見つめる。フレメン兵がムアッディブ・アトレイデスの旗を握り締めながら、砂の惑星アラキスの巨大生物、サンドワームの背中に前かがみに乗り、皇帝のサーダカー[1]部隊に襲い掛かる。

 ああ、前作の『デューン砂の惑星PART1』はこのシーンのために作られたのか、と勝手に納得した。

 アメリカ人作家フランク・ハーバート[2]による原作、『デューン 砂の惑星』[3]は1965年に出版され、優れたSF小説に授与されるヒューゴー賞とネビュラ賞を共に受賞し、1984年には、後にTVドラマの『ツイン・ピークス』で大ブレイクしたデイビッド・リンチの監督作品として映画化された。

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 自分は中学生の頃、親友の勧めで『デューン』を読み、衝撃を受けた。当時すでにSF小説が好きで、一番好きな作家は『鋼鉄都市』などロボットが主役の小説で有名なアイザック・アジモフだったが、自分が読んだ中で一番好きなSF小説を一冊挙げるとすれば断トツで『デューン』だった。今でも、最も印象に残るSF小説を一冊だけ選ぶとすれば、殆どの日は『デューン』を選ぶと思う[4]

 とにかく表現の恰好良さに圧倒された。登場人物の名前からして、いきなり[5]恰好いい。パーディシャー皇帝シャッダム四世、皇帝の精鋭部隊サーダカー、ギルド・ナビゲーター。悪役のハーコーネン家と彼らの母星であるギエディ・プライムもいかにもそれっぽい。

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 小説を読んだ後に、デイビット・リンチ監督によって映画化され、当時酷評されていた最初の『デューン』映画をテレビで見た。カイル・マクラクラン、パトリック・スチュワート、スティング等の著名な俳優やアーティストが出演していて、結構気合を入れて作られた映画のように思えた。評判ほど悪くはないと思ったし、恒星間航行を可能にするギルド・ナビゲーターが完全に人間離れした姿で描かれていて、印象的だった。ストーリーは原作を忠実に再現しているように思えたし、自分は小説を読んでから見たからかもしれないが、「分かりにくい」といった評判には首をかしげたくなった。

 その最初の映画から四半世紀以上経ち、仕切り直して映画化に挑んだのがドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。

自分にとってはドゥニ・ヴィルヌーヴの代表作と言えば、アメリカ政府と麻薬カルテルの戦いを描いた映画で2015年に公開された『ボーダーライン』(原題:Sicario)だが、それ以外にも2017年の『ブレードランナー2049』や、人類と異星人の接触を描いた2016年の映画『メッセージ』(原題:Arrival)など、印象に残る作品の監督を務めている。物悲しく寂しいムードと、少し恐ろしい雰囲気が漂う映画を作るのが得意な印象を受ける。

 その彼が監督し、2021年に公開された『デューン砂の惑星 PART1』は大ヒットし、絶賛された。自分は映画館で見たが、あまりにも暗く重苦しい雰囲気の映像や音響が長く続き、観ていてつらく感じた。(放映時間も2時間35分と長かった。)映像がきれいで特撮効果もアップグレードされていたのは分かったが、なぜそこまで絶賛されているのか正直に言ってピンとこなかった。

 むしろ、この映画を観た事で、1984年のデイビッド・リンチが監督した『デューン』映画は相当頑張っていたのだな、と思った。2021年の映画を観たことにより、古いバージョンの良さを再発見できた気がした。

 まず、1984年版と2021年版で映像化されたシーンを比較すると、描写の仕方の違いはあるが、映像化するために小説の中から選ばれた場面はほぼ同じだったように思えた[6]。あと、1980年代の映画に登場したギルド・ナビゲーターが全く登場しなかったことには失望した。あれを上回る印象的な映像表現は無理だ、と思ったのか、ストーリーを分かりやすくするにはむしろ省いた方がいいと判断したのか。1984年版で描かれていた、皇帝がギルド・ナビゲーターと対峙するシーン[7]は2021年版には無く、ギルド・ナビゲーターの描写も省かれていたように思う。

 その代わり、2021年版映画で恰好良かったのは、主人公ポールの父、レトが皇帝から、砂の惑星アラキスへの着任を命じられるシーン。皇帝側の代表が命令を読み上げ、「受諾するか?」と聞かれ、自分の支配下の部隊が集結し見守る中「アトレデス家は責任から逃げない。受諾する。」旨返答したシーン[8]は、見ごたえがあった。その儀式の終了際に、レトがどこか所在無く「これで終わりか」と問いかけると、皇帝の代表が冷ややかで不敵な薄笑いを顔に浮かべながら、「終わりだ」と応じる場面はいいシーンだなあ、とつくづく思った。自分としては、『デューン砂の惑星 PART1』の良さはそこに凝縮されている気がした。

 なお、以上の二つのシーンは、1984年版と2021年版のそれぞれの映画で自分が最も好きな場面だが、『デューン』シリーズ一作目の小説にはどちらの場面もない。(と思う。サラッと本に目を通して確認したが、ギルド・ナビゲーターも、皇帝の使者がレトにアラキス着任を命じる場面も、両方とも見つけられなかった。『デューン』シリーズのファンサイトによると、ギルド・ナビゲーターは二作目の『デューン:砂漠の救世主』”Dune Messiah”の序盤[9]に登場するようだ。)

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 面白かったものの、事前の評判と比べると物足りなさを感じた2021年公開の映画『PART1』だったが、『PART2』は見ていて楽しかった。原作でもストーリの後半部分にカタルシスが用意されていたので、そう思うのも当然かもしれないが、Netflixで少しずつ観た『PART2』の方が、より映像表現の見事さを楽しみながら観ることができた気がする。

 『PART2』終盤の、ポールが率いるデューンの民フレメンの部隊が皇帝の軍勢を攻撃するシーンや、ポールが皇帝と対峙し、皇帝の前でハーコーネン家の後継者であるフェイド・ラウサと一対一の果し合いで決闘するシーンは緊張感があり、ポールとフェイドの戦いと、その際中のやり取りは、映画のクライマックスに相応しい盛り上がりとカタルシスを提供してくれた。

 さて、ヴィルヌーヴ監督は『Part 3』を撮るつもりのようだ。ただ、小説一作目『デューン 砂の惑星』の映画化は『Part 1』と 『Part 2』で完結していて、『Part 3』の映画は、小説二作目『デューン:砂漠の救世主』の映画化になるという事のようだ。三部作の最終作という位置付けではなく、最初の二本の映画とは異なる雰囲気の作品を作りたい[10]、とのことだそうだ。

 子供の頃、映画『スターウォーズ』のファンだったというヴィルヌーヴ。スターウォーズ二作目の『帝国の逆襲』までは気に入っていたそうだが、三作目の『ジェダイの帰還』には失望したそうで、そのため今後『スターウォーズ』シリーズの映画監督を務める気はさらさらないらしい。

『ジェダイの帰還』に「イーウォック」が登場したことにより、本人曰く、子供向けのコメディー映画になってしまったことに不満だったのと、彼の目には『スターウォーズ』シリーズの物語が硬直化してしまったように映り、意外感のある展開を描く事が難しくなったように感じている事[11]などを理由として挙げている。

 『デューン 砂の惑星 PART2』の成功の後、注目が集まる『PART3』だが、『スターウォーズ』シリーズの二の舞、特に『ジェダイの帰還』後に陥った袋小路と迷走ぶりを回避する事はできるのだろうか。ヴィルヌーヴのビジョンと手腕に期待が集まる。


[1] 原文は “Sardaukaur” で「サァドォーカー」だと思っていたが、実際は「サーダ

カー」っぽい。下記ユーチューブ動画の58~59秒の台詞を参照した。

“Dune: Part One (2021) – Duncan Idaho’s last stand against the Sardaukar [HD],” YouTube, adriandotg, viewed on Dec. 30, 2024.

日本語表記については下記サイトのキーワード集が詳しい。

「映画『DUNE/デューン 砂の惑星』公開記念!〈デューン〉の世界を知ろう!」Hayakawa Books & Magazines (β): https://www.hayakawabooks.com/n/nfeb8701a5946

[2] 初めて読んだ時、友人のイギリス版ペーパーバックを借りて読んだ事もあり、ずっとイギリス人作家だと思っていたが、実はアメリカ西海岸北部、ワシントン州のタコマ市出身だそうだ。ワシントン州に縁があるSF小説家と言えば、『スノウ・クラッシュ』、『クリプトノミコン』、『七人のイヴ』等の著作がある現役作家のニール・スティーヴンソンを思い出す。

[3] Dune: Book One in the Dune Chronicles, Frank Herbert, Ace Books, New York, Ace Special 25the Anniversary Edition, 1990 (Originally published by Chilton in 1965).

現在の公式ウェブサイト:https://dunenovels.com/dune/

[4] 『デューン』以外に挙げるとすれば、現時点では、アイザック・アジモフによるタイムマシン小説『永遠の終わり』(The End of Eternity by Isaac Asimov)、 ウィリアム・ギブソン のサイバーパンク小説『ニューロマンサー』 (Neuromancer by William Gibson)、パオロ・バチガルピの環境SF小説『ねじまき少女』(The Windup Girl by Paolo Bacigalupi)、ジョン・ヴァ―リイのタイムマシン小説『ミレニアム』(Millenium by John Varley)、オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』(Brave New World by Aldous Huxley)、L・ロン・ハバードの、『猿の惑星』と『スターウォーズ』と『ロッキー』を掛け合わせたようなSF小説、『バトルフィールド・アース』(Battlefield Earth by L. Ron Hubbard)、梶尾真治の『サラマンダー殲滅』、貴志祐介の『新世界より』、ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』(Twenty Thousand Leagues Under the Sea by Jules Verne)、コニー・ウィリスのタイムマシン小説、『ドゥームズデイ ・ブック』 (Doomsday Book by Connie Willis)、メアリ・ドリア・ラッセルのSF小説で、遠藤周作の『沈黙』と通じる部分があるように感じた『スパロー』(The Sparrow by Mary Doria Russell)、アレクサンドル・ベリャーエフの『両棲人間』(Amphibian Man by Alexander Beliaef)、その世界観のディストピアンぶりが2006年に公開された映画、Children of Menを彷彿とさせる フランク・ボンハム (Frank Bonham) のThe Missing Persons League 、マデレイン・レングルの『五次元世界の冒険』(A Wrinkle in Time by Madeleine L’Engle) など。

[5] 主要登場人物:Paul Muad’dib Atreides, Duke Leto Atreides, Duke Leto’s Mentat; Thufir Hawat, (who later ends up working for the Harkonnens,)  Lady Jessica, Alia; the daughter of Duke Leto and Lady Jessica and the sister of Paul Muad’dib, Gurney Halleck, Stilgar, Chani, the Baron Vladimir Harkonnen (the Harkonnen’s home world is Giedi Prime), the Padishah Emperor, Shaddam, the Landsraad Council, Princess Irulan, the Reverend Mother Gaius Helen Mohiam; the Emperor’s Truthsayer, Feyd-Rautha Harkonnen, Count Fenrig; genetic-eunuch and killer (p. 473), and Lady Fenrig, Vladimir’s nephew Rabban Harkonnen, etc.

[6] 1984年版の映画は最近見ていないのと、2021年版も通して観たのは映画館で観たときだけなので比較がおおざっばかもしれないが、両方の映画で描写されていた場面の例を挙げると、ポールが、ゴム・ジャッバールを使ったベネ・ゲセリットの生死をかけた通過儀礼に挑む場面(Dune, pp. 7-10)、ガーニー・ハレックがポールと決闘の訓練をしかける場面 (Dune pp.35-36) 、レトが部下やポールをオーニソプターに乗せて、砂の惑星上でスパイスを採掘する作業を視察に行くシーン(Dune, pp. 115-126)、ダンカン・アイダホの最期(Dune, pp. 225-226)、ポールとフェイド・ラウサの決闘(Dune, pp. 483-486)等。

[7] 1984年版の映画に登場した、ギルド・ナビゲーターの映像がユーチューブにあった。たとえば次の動画の3分20秒以降。“Dune [1984]: The Spacing Guild Demands Details from the Emperor of the Known Universe,” YouTube, Code Optimization Ware (Strangerhand), Viewed on Dec. 30, 2024.

[8] “Dune | The Emperor Has Spoken | Warner Bros. Entertainment,” YouTube, Warner Bros. Entertainment, Viewed on Dec. 30, 2024.

[9] https://dune.fandom.com/wiki/Guild_Navigator

[10] “Denis Villeneueve” Says ‘Star Wars’ Got ‘Derailed’ by ‘Return of the Jedi’ and ‘There’s No More Surprises’ in the Franchise: ‘I’m Not Dreaming’ of Directing One ,” By Zack Sharf, Variety, Nov. 27, 2024, Variety Media, LLC., Retrieved on Dec. 30, 2024. https://variety.com/2024/film/news/denis-villeneuve-star-wars-derailed-return-of-the-jedi-1236225665/ 

[11] 同上。

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“【映画レビュー】『デューン砂の惑星 PART2』、監督ドゥニ・ヴィルヌーヴ、脚本ドゥニ・ヴィルヌーヴ、ジョン・スぺイツ、配給ワーナー・ブラザース・ピクチャーズ、2024年。(Dune: Part Two, directed by Denis Villeneuve, screenplay by Denis Villeneuve and Jon Spaihts, Warner Bros. Pictures, 2024.)”. への返信

  1. wsudxiga

    StarWarsみたいな明るいSFもいいですが、ダークなSFもいいですよねえ。
    自分的には「ブレードランナー」が一番好きでした。
    小説の「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」は映画とはちょっと違いますが、それもよかったです。
    いまのAI時代への深い示唆があるような気がします。
    小説買いなおして、ブログに書いてみようかなあ。

    デビットリンチはTwinPeaksでもカイル・マクラクラン使ってたし、お気に入りの俳優なのかもですね。

    いが

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    1. Masayuki Kitano

      伊賀さん、コメントありがとうございます!小説の話、ブログに書いてみてはどうですか?『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の記事、是非読んでみたいです。

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