本書 ”I, Asimov: A Memoir”によると、アメリカのSF作家御三家の一人として名を馳せた、著者のアイザック・アジモフは1920年1月2日にロシアで生まれ、三歳の頃に両親に連れられアメリカに移住[1]したそうだ。
物を書き始めたのは十一歳の頃[2]で、初めて雑誌に売れた短編のSFは”Marooned Off Vesta”で雑誌への掲載が決まったのが1938年の頃。
SF小説のデビュー作は、1950年にダブルデイ社から出版された『宇宙の小石』で、1951年の『暗黒星雲のかなたに』1952年の『宇宙気流』と共に銀河帝国シリーズに数えられる。1954年にはロボットシリーズの一作目、『鋼鉄都市』”The Caves of Steel” が出版され、1955年には単独作品の『永遠の終わり』”The End of Eternity,” 1956年にはロボットシリーズ2作目の『はだかの太陽』”The Naked Sun” が出版された。
意外だったのは、1960年代と1970年代にはSF小説はそれぞれ一冊ずつ執筆したのみで、しかも1960年代の作品は映画『ミクロの決死圏』の小説化。オリジナルのストーリーではなかった。
アジモフはむしろその頃からノンフィクション作品の執筆に没頭し始める。1957年にソ連が人類初の人工衛星であるスプートニクの打ち上げに成功すると、先端技術で後れを取ってしまったというパニック心理がアメリカ国内で広がり、アメリカ人の教育の為にも科学についての本を一般向けに書いた方がいい、と考えるように[3]なったそうだ。その結果、1972年に『神々自身』”The Gods Themselves” を出版して以降はSF小説の執筆から遠ざかるようになった。
なお、『神々自身』の中の第二部で描写されているエイリアンは、SF小説に登場する異星人としては史上最高のエイリアンだ、というのがアジモフ本人の自己評価であり、『神々自身』の第二部は本人曰く、自身の書いた物としては最高の出来だった、とのことである。
アジモフは実はSF小説よりノンフィクション本の方が圧倒的に多い作家だった。
本人の説明によると、SF小説の方が書く時には舞台設定に加え、その社会の仕組み等についても考えておく必要があり、執筆に時間がかかる。それに比べると、ノンフィクション本はスイスイ書き進める事ができるらしい。
出版社からSF小説を書くようにせっつかれ、アジモフは1980年代に入ってからついにSF小説を再び書くようになる。その復帰第一作目は1982年に出版された 『ファウンデーションの彼方へ』“Foundation’s Edge” で、その後1983年にはロボットシリーズの続編 『夜明けのロボット』“Robots of Dawn”も執筆。
ちょうどアジモフがSF小説を再び書き始めるようになった時期は自分がSF小説を読み始めた時期と重なっていて、つくづく幸運だったな、と感謝の気持ちを覚える。
その後1987年には『ミクロの決死圏2:目的地は脳』、”Fantastic Voyage II: Destination Brain” を出版しているが、これは映画の小説化ではなくアジモフが好きなように物語を書いた[4]、とのことだ。

アメリカとソビエト連邦が協力し合う未来が描かれており、そのような内容が不評だったのかもしれない、とアジモフは本書で述懐している。米ソがお互いおそるおそるながら協力し合うストーリーを読んでみたくなり、先日メルカリで “Fantastic Voyage II”の古いペーパーバック版を購入した。古さ相応の状態で、カバーも注意しないと崩れてしまいそうだ。

さて、1987年から記録し始めた自分の読書記録を読み返してみると、アジモフの本は殆ど登場しない。彼のSF作品は主に中学の頃に読んでいたようで、その後は社会人になってからなぜか”Foundation”を三回ぐらい、それぞれ別の年に読み返しているぐらい。(あと、Nemesisという名の後期のSF作品を社会人になってから読んだ気がする。)
“Foundation”はアジモフ氏の代表作で、ロボット三部作以上に有名な作品かもしれないが、物語の途中で世代交代が起こってそのたびに新しい主人公が出てきたりして、ロボット三部作のようには、なかなか頭にすっと入ってこない感じがある。そのためつい読み返してみたくなる作品で、昨年メルカリで続編のペーパーバックを二冊購入したこともあり、現在再チャレンジ中である。
そういった中、先日近所のブックオフの洋書売り場の書架を眺めていると、なんと、アジモフ氏の初期作品、銀河帝国三部作のハードカバー版が目に飛び込んでくるではないか!これは高そうだと恐る恐る本を手に取り値段を確認すると一冊220円と、自分にとっては大バーゲン!

どうやら1980年代にイギリスで出版されたハードカバー版のようだが、保存状態も悪くなさそうだし、そもそも、銀河帝国三部作の一作品目[5]はなぜかあまり新品ですら洋書店でみかけない。(最近見に行った丸善京都本店でも二作目はあってもなぜか一作目がない。)念のためアマゾンの値段も確認するが、特に安い中古品も出品されておらず、これは買うしかないな、と思い腹をくくり三冊とも購入した。できればこの三冊も2025年中に読み終えて、書評を書いてみたい。

[1] 本書、1頁。
[2] 本書、47頁。
[3] 本書キンドル版、252頁。
[4] 本書、504
[5] これは昔、30年以上前からずっとそうで、なぜか一作目を洋書店で見かけたことはほとんどなかった。
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