
アメリカの中央情報局(CIA)で長年ロジスティックス業務を担当した著者、Katy McQuaid氏による、自伝的作品である。
本書を読もうと思ったきっかけは、ワシントンD.C.のインターナショナル・スパイ・ミュージアムで3月末にサイン会を実施する、という情報を見かけた事だった。ワシントンへ旅行を予定していた時期と重なっていたため、是非参加してみたい、と思うようになった。いざ読み始めてみると、1983年12月にCIAで勤務するようになってから2年経たないうちに東南アジアに派遣された話等、著者の体験談にどんどん引き込まれていった。
東南アジアで政変が起きたときの体験や、CIA内で信頼を得て出世していく話、そして2000年代後半頃、CIAのアフガニスタン支局長が離任する際に当時のカルザイ大統領が催した晩さん会に参加した時の話など、様々な印象深いエピソードが登場する。そのような現場の雰囲気、緊迫感、そこで交わされた会話等について読むだけでも興味深い。
それに加え、謙虚な言動を大切にする著者が、CIAという男性中心組織の中で、評価され地位を確立していく過程が、本書のもう一つの柱である。管理職に就くようになった著者は、自らの価値観に従い、声を荒げたりせずに、静かに相手を説得する行動原理を貫いた。
高圧的な言動で、部下を心理的に追い詰めて操作する事に長けた人間とも著者は関わったことがあるそうだが、そのような人間に対し行動を改めるよう指示する時も、落ち着いた口調で筋道立てて考えを伝える事を心がけたそうだ。
そうすると、その翌日、その人間は、こんなに直截的に自分の課題点を指摘されたのは初めてだ、とした上で、著者とのミーティングでは著者の口調があまりにも落ち着いていたのでピンとこなかったが、後になってから、実はものすごく厳しいフィードバックだった事に気づき、その晩は殆ど一睡もできなかった、と述べたという。
著者はまた、与えられた仕事や誘いには、不安や心配があっても思い切って飛び込んでいくことが大切だ、と説く。著者の場合、オペラへの出演を知り合いから勧められ、イエスと答えて成功した経験から、その後も、実力のあるチームの一員として活動する機会を追い求めるようになった、と述べている。
本書は著者にとって、大人向けの一冊目の作品で、これまでは犬が主役の子供向けの本を数冊出版している。

本にサインしてもらった際に、本書の続編は考えているのか、著者に尋ねてみたところ、他の人にも同じ事をよく聞かれる、との事だった。物腰が柔らかい、優しそうな雰囲気の方で、謙虚な言動を用いて他人の信頼を勝ち取る、という行動原理がいかにも似合いそうな人、という印象を受けた。
サインしてくださった時のメッセージも ”Just say yes!” となっていて、思い切って挑戦してチャンスを掴みに行く事の重要性についても、改めて考えさせられた。前向きな行動を後押ししてくれそうな、清々しい読後感の残る一冊だ。
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