
NFLはトレーニング・キャンプに入る前の夏休み中、とのことでダラス・カウボーイズ関連の記事もここ一、二週間ほとんど出ておらず、寂しい限りである。
誰も書いてくれないなら自分で書いてしまえ、ということでカウボーイズの今シーズン見通しについて考えてみたい。
まずはカウボーイズのオフシーズン最大のニュースについて触れておきたい。ワイド・レシーバーのジョージ・ピケンズ選手をピッツバーグ・スティーラーズから獲得した事である。素晴らしい、の一言につきる。アマーリ・クーパー選手をレイダーズから獲得した時に匹敵する、効果的な補強ではないだろうか。
不安材料はピケンズ選手がスティーラーズ時代に、不満を燻ぶらせる場面が時折あった点で、スタンドで観戦しているファンと口論したり[1]、昨シーズンカウボーイズと対戦した試合では、当時スティーラーズのエースレシーバー的存在だったにも関わらず、彼の出場機会がオフェンスのプレイ数の6割程度に限定されたり[2]、傍から見ていて不可解なエピソードがいくつかあった。スティーラーズのヘッドコーチのマイク・トムリンは、しっかりコミュニケーションをとりながら辛抱強く選手を起用する指導者、という印象を受ける。そのトムリン氏率いるチームからわずか3シーズンで放出されたことが最大の不安材料である[3]。
ただ、カウボーイズの一員としてチームにうまく溶け込むことができれば、彼の過去の成績を見る限り、かなりの活躍が期待できそうだ。スターWRのシーディー・ラム選手を相手ディフェンスが常にダブルカバーするのは難しくなり、カウボーイズのパス攻撃の幅が広がり、爆発力が増大しそう[4]で、今からシーズン開始が楽しみになるニュースである。やはり今シーズン最初のプレイは失敗してもいい、インターセプトされてもいい[5]ので、一発ピケンズ選手に深いパスを投げてもらいたいと思うが、いかがなものか。
こうやって書いてみるとずいぶん今シーズンは幸先が良さそうでワクワクしてくるではないか。
だがしかし、である。冷静になると不安材料や不透明な部分が結構多い。
まず心配なのがコーナーバックの選手の中に怪我から復帰しようとしている選手が複数いて、しかも本来なら先発要員もしくは、かなりローテーションにしっかり入る事が期待されている選手が含まれていることである。カウボーイズの公式ウェブサイトの記事を見る限り、左膝の手術からリハビリ中のトレイヴォン・ディッグス選手の復帰時期は未定で、カウボーイズが今年のドラフトで獲得した期待の新人、シェイヴォン・レヴェル選手も、去年大学でプレイしていた時に傷めた前十字靭帯の負傷からリハビリ中で、うまくいけば今シーズン開幕に間に合うかも、という状況らしい[6]。
そうなると、シーズン開幕時の先発コーナーバックの一人はデロン・ブランド選手がほぼ確定的としても、スロットを守る選手も含めて後の二人の先発選手が誰になるのか、皆目見当つかない。今シーズンどこかの時点でブランド選手、レヴェル選手、ディッグス選手が三人そろって先発できると素晴らしいが、それがいつになるのか、そしてそもそも2025年中にそれが実現するのかさえ不明である。シーズン開始前にフリーエージェントのベテラン選手と契約して、層を厚くしておいた方がいいのではないだろうか。

その次の不安材料はオフェンスラインである。今年のドラフト1巡目で指名した、アラバマ大学出身のタイラー・ブッカー選手は右ガードで先発する事が濃厚で、センターは昨年と同じくクーパー・ビービー選手が先発し、ベテランのタイラー・スミス選手も引き続き左ガードで先発する事になるのだろう。
右タックルはベテランのテレンス・スティール選手で、クオーターバックのブラインドサイドを守る左タックルは今年で二年目のタイラー・ガイトン選手が先発する事はほぼ確定的と思われる。ガイトン選手はオクラホマ大学出身で、カウボーイズが昨年のドラフト1巡目で指名した若手のホープである。大学ではずっと右タックルをしていたにもかかわらず、昨年はシーズン開幕から逆サイドの左タックルで先発し、我慢の一年となった。カウボーイズが一巡目で指名したオフェンスラインの選手は大概一年目から活躍するパターンが多い事を考えると、期待外れのシーズンに終わったと言えるだろう。
(プロ・ボウル出場経験のあるタイラー・スミス選手も一年目から活躍していたし、引退した、殿堂入り間違いなしと言われる元左タックルのタイロン・スミス選手もしかり。センターでファースト・チームのオールプロにも選出された経験もあり、2019年に惜しまれつつ引退したトラヴィス・フレデリック選手も一年目から頼りになる存在だった。)
ガイトン選手については、ルーキーだったにも関わらず慣れない左タックルで先発を強いられた点は考慮する必要があるだろう。あのタイロン・スミス選手でさえ、入団二年目に右タックルから左タックルにコンバートされた時は、シーズンを通して調子が今一つだったような記憶がある。ガイトン選手には昨年の経験を糧に今シーズンは大きく飛躍する事を期待したいが、実際そうなるかどうかは蓋を開けてみないと分からない。
右ガードのブッカー選手は一年目からすぐ活躍できるだろうと言われているが、プロの世界での実力は未知数である。
そう考えると、今の時点で安定した活躍が計算できそうなのは、左ガードのスミス選手、センターのビービー選手、そして右タックルのスティール選手のベテラン勢三人衆になるが、スティール選手は昨シーズンやや精彩を欠き、今年どこまで復調できるのか不安もある。
このように、昨年と今年のドラフトでオフェンスラインの選手を一巡目で指名した割には、不透明感が強いポジション・グループと言えるだろう。
あとはディフェンスラインのランディフェンスの改善度合いも、見てからのお楽しみ状態だし、オフェンスのラン攻撃の強化策が実を結ぶかどうかも分からない。
こうやってリストアップしていくと、ワイド・レシーバー以外に明確なポジティブ材料がないようにも思えてくる。クオーターバックのダック・プレスコット選手も昨シーズンは負傷する前からあまり調子が良くなかったことを考えると、どんどん不安材料が増えていく。
記事前半にワイド・レシーバーの事を威勢よく書いていた時から比べると、ずいぶんとどんよりしたトーンになってきてしまった。
ただ、そうはいっても今シーズンは10勝以上し、プレイオフで1勝以上する事を期待している。その背景には、不透明感が強いとは言いつつも、オフェンスラインとラン攻撃が改善される事への期待感があるからである。そうなれば、QBのプレスコット選手に対する負担やプレッシャーも減り、レシーバー陣の強化策も功を奏し、オフェンスの爆発力は大幅に増すだろう。そこでディフェンスが何とかリーグ平均近辺あたりのパフォーマンスを発揮できれば、12勝とまではいかなくても、プレイオフ出場には手が届くのではないだろうか。
エース・ディフェンダーのマイカ・パーソンズ選手との契約更改交渉に時間がかかっているが、カウボーイズの交渉スタイルからすると、シーズン開幕直前には決着するのだろう。
シーズン前にさらにチームの補強が進む事を期待しつつ、まずはトレーニング・キャンプとプレシーズンでどの選手が頭角を現してくるのか、楽しみに見守りたい。
[1] “Steelers’ George Pickens gets into it with fans during dreadful performance against Bengals,” By Jaclyn Hendricks, New York Post online edition, Published Jan. 5, 2025, 10:48 a.m. ET, viewed on July 6, 2025.
[2] “Mike Tomlin Gave Strange Explanation for George Pickens’s Low Snap Count vs. Cowboys: The young receiver played only 60% of his team’s offensive snaps against Dallas,” By Liam McKeone, Sports Illustrated online edition, Oct. 7, 2024, Retrieved on July 6, 2025.
[3] ピケンズ選手の獲得ヤード数は2022年801ヤード、2023年1140ヤード、2024年900ヤードで、3年間のパスキャッチ1回あたりの平均獲得ヤード数は16.3ヤードとのことで、先発レシーバーに相応しい成績を年毎に重ねている。(データ出典はPro Football Reference)それでもスティーラーズは、彼をトレードで放出することを選んだ。
[4] WRジェイレン・トルバート選手や、タイトエンドのジェイク・ファーガソン選手、ルーク・スクーンメイカー選手などなど、他にもパス攻撃で活躍してくれそうな選手がそろっている。
[5] QBのプレスコット選手がサックされたり、ヒットされたりすることだけは避けてもらいたい。
[6] “Which Position is the Most Pressing Need?” By Tommy Yarrish, Mickey Spagnola, Kyle Youmans and Nick Eatman, July 4, 2025, https://dallascowboys.com.
コメントを残す