【NFL観戦記】ダラス・カウボーイズとマイカ・パーソンズ選手の契約更改交渉

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 契約更改交渉の行方に注目が集まるマイカ・パーソンズ選手。新しいディフェンシブコーディネーターのもと今年はどのような活躍を見せてくれるのだろうか。

ダラス・カウボーイズのディフェンスのエース、エッジディフェンダーでサックとプレッシャーを驚異的なペースで量産するマイカ・パーソンズ選手の契約更改交渉に注目が集まっている。カウボーイズはトレーニングキャンプ開始のため、7月20日にカルフォルニア州のオックスナードに移動し、チーム練習も始まっているが、交渉は決着するどころか、オーナー側とパーソンズ選手のレトリックの応酬はむしろヒートアップしている印象だ。
昨年の、クオーターバック(QB)のダック・プレスコット選手とワイドレシーバー(WR)のシーディー・ラム選手、そして30年以上前の1993年のシーズン中におけるNFL歴代最高ランニングバックの一人、エミット・スミス選手との契約更改の経緯を見る限り、カウボーイズのフロントオフィスとオーナーは交渉を早く妥結させるのが苦手というより、意図的に避けているようにさえ見受けられる。
チームに不可欠なエース級の選手といたずらに交渉を長引かせてもチーム側が得する事はないように思われる。実際昨年のプレスコット選手やラム選手のケースでは、その前のシーズン中に(QBやWRの相場がさらに高騰する前に)契約更改を済ませておけば、契約総額もしくは一年毎の金額を抑えることはできたのではないだろうか。

 そして選手側は、ラム選手が昨年そうしたように、トレーニングキャンプ前のオーガナイズド・チーム・アクティビティ(OTA)[1]をボイコットする[2]など、シーズン前のチームへの合流を遅らせたり、チームとの練習機会を回避したりする必要はなくなる。(昨シーズン、QBプレスコット選手とラム選手の呼吸はどこかあっておらず、連携がどこかギクシャクしていたように見受けられた。今年のオーガナイズド・チーム・アクティビティの際に、記者からの問いに対し、「自分がOTAとトレーニングキャンプに参加するのは2023以来だ[3]。」という風にラム選手は答えていたが、最初からOTAに参加さえしていれば2023年シーズンの1700獲得ヤード以上の成績を残すのは朝飯前だ[4]、と言わんばかりの表情だった。ワイドレシーバーのジョージ・ピケンズ選手の加入もあり、今年は期待できそうだ。)

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 今年はOTAにも最初から参加し、QBのプレスコット選手も怪我から復帰。ジョージ・ピケンズ選手の加入もあり、チームのオフェンスと自分の活躍に自信を持っているオーラが漂うエースWRのラム選手。

 パーソンズ選手は実は2025年は契約最終年のため、カウボーイズとしては今年は契約更改を見送り、来年はパーソンズ選手をフランチャイズタッグすれば、チーム側の判断で契約を一年延長できる制度になっている。そうした場合、パーソンズ選手が今年と来年活躍すれば、再契約のための相場は跳ね上がる事が予想される。(プレスコット選手の時のように。)
 しかも、トレーニングキャンプの様子を伝える記事や動画等を見る限り、パーソンズ選手はポジショングループの練習には参加しておらず見学しているようだ。本人は「腰まわりが強張っているため」といったような説明をしているようだが[5]、契約交渉が進展していない事への抗議活動のようにも思える。
 そういったなか、カウボーイズは先発タイトエンドのジェイク・ファーガソン選手と4年契約で合意した[6]というニュースが飛び込んできた。ファーガソン選手は頼りになる存在で、昨年やや不調だったのは膝の負傷や脳震盪の影響、先発QBプレスコット選手のシーズン途中からの欠場[7]といった要因のためで今シーズンは復調するだろう、という見立ては妥当だと思う。
 だがしかし、そうなると2023年にドラフト2巡目で指名したルーク・スクーンメイカー選手はどうなるのか。スクーンメイカー選手を指名した時点で、カウボーイズはタイトエンドとはルーキーコントラクトの延長に応じる気はなく、毎回ドラフトで補充することでタイトエンドに割り当てる契約金を抑えるつもりなのだな、と思ったものだ。そうでもなければ、なぜ2023年の時点ですでにファーガソン選手がロスターにいながら、2巡目でわざわざスクーンメイカー選手を指名したのか。 

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 今年が勝負の年になりそうな、タイトエンドのルーク・スクーンメイカー選手。去年の実績を土台に今年はさらなる活躍が期待される。

 長期的な計画はあるのかないのか。今一つチグハグな感じが否めず、パーソンズ選手への当てつけではないか、とさえ勘ぐりたくなる。(ファーガソン選手は実績のある選手で今シーズンの活躍も期待できそうだし、今のうちに契約更改しておく事は決して悪くはないが、チームの最優先課題ではない気がする。)
 好意的にこのニュースを解釈するとすれば、パーソンズ選手との交渉を本格化させる前に周りの選手との契約を済ませておきたいのかもしれない。そうだとするとコーナーバックのダロン・ブランド選手やガードのタイラー・スミス選手との契約更改[8]が先に決着してもおかしくないが、果たしてそのような展開になるのだろうか。
 さて、話を戻すが、カウボーイズのフロントオフィスはスター選手との契約更改をなぜ先送りしたがるのだろうか。
 ザ・アスレチック誌の記事にはカウボーイズはパーソンズ選手との更改交渉に急いで取り組む姿勢は見受けられないものの、「相場の水準を決めるような交渉でない場合は」もう少し積極的な交渉姿勢を見せる、といった趣旨の記述がある。一理あるかもしれない。ただ、そのような傾向があるとはいえ、ビジネス上の交渉ごとに慣れていそうなオーナーのジェリー・ジョーンズが「相場の水準を決めるような交渉」に及び腰になる必要はない気がする。(ザ・アスレチック誌もオーナーやフロントがそのようなビッグな交渉を避けたがっているなどと述べている訳ではない。)
 だとすれば、他に考えられる説明は何だろう。思うに、高額な出費は絶対必要な状況になるまでは可能な限り避ける、という感じの金銭哲学が背景にあるのではないだろうか。 今すぐパーソンズ選手と契約更改すれば、結果的に契約額を抑える事には成功するかもしれない。しかし、契約した後で、選手が何かの拍子で不調に陥る可能性はゼロとは言い切れない。そのような不確実性がある以上は、高額な複数年契約を前倒し的に締結することはできるだけ避け、契約更改しないとチームに致命的なダメージを与えてしまう、という切羽詰まった状況になるまで敢えて待つ、という考え方も分からなくはない。
 去年の場合、ラム選手のようにワイドレシーバーで5本か3本の指に入りそうな選手や、リーグ有数のQBであるプレスコット選手ともし再契約しなかったとすれば、チーム成績は確実にどん底まで沈んでいったと思われる。(昨シーズン、もしラム選手がいなければ、プレスコット選手がシーズン途中で欠場するなかカウボーイズは3,4勝するのがやっとだったかもしれない、と個人的には思う。)
 パーソンズ選手の場合でも、いずれチームにとって危機的な状況になるのは確実だろうと思われるが、もし前述したような哲学にフロントオフィスが拘泥しているのであれば、パーソンズ選手と今年は契約更改せず、来年は彼にフランチャイズタッグをつけて契約を一年延長する形をとり、2026年シーズンの後で交渉することさえ視野に入れているのかもしれない。今シーズン開幕までには決着する、と期待したのは見通しが甘かったように思う。ただ、このように交渉を先送りすればするほどパーソンズ選手はフロントに対する不満を募らせていくだろうし、プレイへの悪影響が心配になる。その意味で交渉の先送りは選手だけでなくチームにとってもリスキーである。
 さて、妥当な理屈として考えられるのはこのような内容だと思うが、最近もう一つの可能性があるような気がしてきた。
 もしするとカウボーイズのフロントは、自ら「悪役」を買って出ることで、スター選手に批判の矛先が向かうことなく、その選手の収益ポテンシャルを最大化できるように、わざと仕向けているのではないか、という発想である。
 そのシナリオに沿う展開として考えられるのは、まずカウボーイズのフロント側は交渉の初期段階では、選手や選手のエージェントそしてファンの神経を逆撫でするような言動をポンポン繰り出していき、選手、エージェント、ファンそれぞれのイライラを敢えて増幅させておく。
 メディアやファンの間では、カウボーイズは何をやっている、早く〇〇選手と契約更改すべきだ、学習効果を発揮できないのかこのチームは、といった批判が盛り上がるが、スルーする。
 そうやっておくと、レトリックの応酬や紆余曲折を経て、最終的に複数年契約で選手と合意できた際には、頑固なフロントオフィスと粘り強く交渉した選手はよく頑張った、というムードが出来上がっているはずである。貰いすぎだ、といったファンやメディアからの批判の矢面にその選手が立たされる事態は起こりにくそうだ。選手に余計な批判やプレッシャーがのしかかる状況を避けながら、しっかりチームの貢献者には大金を支払う、という実はメディアやファンの反応も計算しつくした上での、選手への感謝の気持ちを込めたマーベラスな交渉スキーム、という見立てである。
 このように書いてみたものの、殆ど妄想の世界である。フロントはまさかこんな事を本気で考えているわけではないだろうが、こういう風にでも説明しなければ理解しにくい、とっても不思議なダラス・カウボーイズの契約更改戦略ではある。


[1] Organized Team Activitiesの略。オフシーズン中に実施するチーム主催の自主参加型プログラムという位置づけだ。実際は契約更改で揉めている、もしくは何か他に特別な事情がない限り、殆どの選手が参加するのが通例のようだ。“Organized Team Activities Begin Today for 21 NFL Clubs,” By Kevin Patra, NFL.com, May 20, 2024, retrieved on July 28, 2025. https://www.nfl.com/news/organized-team-activities-begin-today-for-21-nfl-clubs

[2] “Cowboys All-Pro WR CeeDee Lamb rejoins Dallas’ team practices, pushes for Dak Prescott extension,” By Garrett Podell, CBS Sports, Aug. 28, 2024, retrieved on July 28, 2025. https://www.cbssports.com/nfl/news/cowboys-all-pro-wr-ceedee-lamb-rejoins-dallas-team-practices-pushes-for-dak-prescott-extension/

[3] CeeDee Lamb: 2025 Season Starts Now / Dallas Cowboys 2025, Dallas Cowboys YouTube channelより。この会見の最後のやりとりで、2024年は契約更改の問題がありOTAを欠席したが、今年は最初から参加できているがその違いについてどう思うか、と記者に問われたのに対し、ラム選手は次のように回答して会見場を後にした。“The last time I had OTAs, and training camp was 2023.”(記者の質問は6分25秒から。ラム選手の回答は6分38秒から。)ラム選手の2023年のレシーバーとしての成績は135レセプション、1749獲得ヤード、12タッチダウン。カウボーイズの年間レセプション数とレシービング獲得ヤード数の記録を塗り替える大活躍だった。

[4] 朝飯前、は誇張かもしれないが、ラム選手の記者会見の受け答えと表情からはかなりの自信がうかがえる。

[5] “Micah Parsons cites back tightness for not participating in practice,” By Chareen Williams, Pro Football Talk, July 22, 2025. https://www.nbcsports.com/nfl/profootballtalk/rumor-mill/news/micah-parsons-cites-back-tightness-for-not-participating-in-practice

[6] “Cowboys sign TE Jake Ferguson to 4-year, $52 million extension” By Saad Yousuf and Jon Machota, The Athletic, July 28, 2025.

[7] プレスコット選手は2024年シーズの9週目に負傷し、シーズンの残りは欠場した。

[8] パーソンズ選手以外で、2025年もしくは2026年で契約切れになる選手の代表格はスミス選手とブランド選手。“Who could be next in Dallas Cowboys’ extension plans? It could come soon.” By Nick Harris, Fort Worth Star-Telegram, Updated July 27, 2025. https://www.star-telegram.com/sports/nfl/dallas-cowboys/article311484939.html

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