【NFL観戦記】ダラス・カウボーイズ2025年シーズン見通し(開幕直前)

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2021年に入団して以来、通算52.5サックを記録するなど素晴らしい実績を上げたマイカ・パーソンズ選手。まさかトレードで移籍することになろうとは。

 日本時間9月5日午前9:20にダラス・カウボーイズの2025年シーズンは宿敵フィラデルフィア・イーグルスの本拠地リンカーン・ファイナンシャル・フィールドで幕を開けるが、いっそのこと今シーズンは幕を開けない方がいいのでは、と思わせるような衝撃的な事件が日本時間2025年8月29日の、あれは午前7時か8時位だっただろうか、に起きた。

 ディフェンスのエースでリーグ有数のエッジラッシャー、マイカ・パーソンズ選手がカウボーイズの目の上のたんこぶ、グリーンベイ・パッカーズにトレードされたのである。

 そのニュース速報を見た瞬間、脱力感を覚えた。2026年と2027年のパッカーズのドラフト1巡目指名権と、ディフェンシブタックルのケニー・クラーク選手との交換でダラスはパーソンズ選手を放出した、とのことだった。パーソンズ選手を放出するならドラフト一巡目指名権を3つか4つは獲得しないと割が合わない気がする[1]。それどころか、仮に一巡目指名権を3つ4つ行使したとしても、その中からパーソンズ選手級の実力の持ち主を一人も指名できない可能性の方が高いのではないか。また、そのようにして一巡目指名選手を3,4人獲得できたとしても、勝利への貢献度は下手をすればパーソンズ選手一人の貢献度に満たない可能性すらありそうだ。

 ESPNコラムニストのビル・バーンウェル氏の記事によると、パーソンズ選手がプレイしている時のカウボーイズのディフェンスは、過去4シーズン通算の「1プレイあたりの期待失点数[2]」がNFL最少、つまりリーグ最強のディフェンスだったものの、パーソンズ選手が交替などでプレイしていない時の同数値はリーグ最多で最下位だったとのこと。パーソンズ選手の貢献度が如実に表れているデータで、彼が抜けてもダラスのディフェンスはリーグ平均並みの成績を達成できるのでは、という淡い期待に冷水を浴びせる内容である。

 ということでカウボーイズはもったいない、分の悪いトレードをしたと思うが、過ぎた事はしょうがないので、パーソンズ選手には新天地での活躍とカウボーイズのNFC東地区のライバルをこてんぱんにやっつけてもらう事を期待しつつ、気持ちを切り替えて先に進みたい。(カウボーイズはパッカーズと4週目に対戦するが、NFC東地区の他のチームも今シーズン、パッカーズと一回ずつ対戦する予定となっている。)

 カウボーイズの今シーズンの命運はオフェンスラインの3人のタイラーの活躍如何にかかっているのではないだろうか。レフトガードのタイラー・スミス選手、レフトタックルのタイラー・ガイトン選手、そしてライトガードのタイラー・ブッカー選手である。この3人が頑張ってくれれば、いいシーズンになりそうな気がする。

 オフェンシブラインが強さを発揮できれば、派手さは無くても効果的なラン攻撃へとつながり、チーム最大の武器となることが期待される速攻性と破壊力のあるパス攻撃[3]と多彩なプレイコールに支えられ、カウボーイズの今シーズンのプレイオフ進出も現実味を帯びてくるのではないだろうか。

 ディフェンスの方は幸い、コーナーバックのトレボン・ディッグス選手の怪我からの回復は順調そうで、開幕戦に間に合うかどうかは不透明だがシーズン序盤から出場できそうな気配である。そうなるとコーナーバックはディッグス選手とダロン・ブランド選手[4]が先発出場できそうで、むしろディフェンスのストロングポイントになりそうである。

 セイフティはマリック・フッカー選手とドナバン・ウィルソン選手のベテランコンビが中心で安定感がありそうだ。ラインバッカ―陣は「エージェントO」ことデマ—ヴィオン・オーバーショウン選手が早く復帰できれば心強い。それまでは今シーズンから加入し、新ディフェンスコーディネーターのマット・イバーフレスのスキームに慣れていそうなジャック・サンボーン選手[5]と、若手の頑張りに期待したい。

 パーソンズ選手が抜けた後のエッジディフェンダー陣は、今年ドラフト2巡目で指名された期待の新人ドノバン・エゼイラク選手、今シーズンからカウボーイズに復帰し昨シーズンはワシントン・コマンダーズの一員として10.5サックを記録したダンテ・ファウラー選手、飛躍が期待される若手のサム・ウィリアムズ選手とマーショウン・ニーランド選手[6]など、顔ぶれは揃っている気がする。

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今シーズンの活躍が期待されるサム・ウィリアムズ選手とマーショウン・ニーランド選手

ディフェンシブタックル(DT)はパッカーズからケニー・クラーク選手[7]が加入することで、昨シーズンよりパワーアップしている感がある。今シーズンのチームキャプテンの一人[8]に任命されたオサ・オディギズワ選手には引き続き活躍してもらいたいし、マジー・スミス選手はクラーク選手から刺激を受けて大化けして飛躍することを期待したい。

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マジー・スミス選手にとって2025年は飛躍の年となるのか。

 こうやって書きだしてみると、ずいぶんいいシーズンになりそうな気がしてくるではないか!果たしてその期待は来週以降も持続するのだろうか。

 前述のとおり、日本時間9月5日には昨シーズンのスーパーボウル覇者、フィラデルフィア・イーグルスとの開幕戦が控えている。そこでダラスの新オフェンスは、観客をあっと言わせるような、パワフルで意外性に溢れる、変幻自在な攻撃を繰り出すことができるのだろうか。イーグルスの強靭なディフェンシブラインに対し、カウボーイズのオフェンシブラインは自軍ランニングバックのために道を切り拓き、エースクォーターバックのダック・プレスコット選手がパスを通せるよう、十分な時間を確保することができるのだろうか。それとも今回書いたような、ブライアン・ショッテンハイマ―新ヘッドコーチ率いる新生ダラス・カウボーイズに対する期待は、シャボン玉のごとく吹き飛ばされ、儚い夢のようにあっという間に雲散霧消してしまうのだろうか。

 開幕戦は31対28でカウボーイズが勝利することを期待したい。


[1] 各種記事の中でESPNコラムニストのビル・バーンウェル氏の分析が冷静で興味深かった。ダラスは何を考えているのか、と疑問を投げかけつつも、パッカーズもパーソンズ選手に高額の報酬を払う事になるし、一巡目指名権という、いい選手を相対的に安価な報酬で数年雇える手段を手放す事の危険性について指摘していて、その記事を読むとそこまで一方的なトレードでない気もしてきた。そう自分に言い聞かせたいだけかもしれないが。”What the Micah Parsons trade means for the Cowboys, Packers,” Bill Barnwell, Aug. 28, 2025, ESPN.com.  

[2] Expected Points Added (EPA)と言うらしい。Expected Points(期待得点)とは、フィールドポジションやファーストダウン獲得までの距離などを考慮し、プレイ毎に、そのプレイ開始時点で、次に得点が入るかハーフが終わるまでの間、どちらのチームが何点取れそうな状況なのかを評価する尺度とのこと。たとえばファースト・アンド・ゴールの場合は、オフェンス側から見て期待得点はプラス6点になるそうだ。あるプレイとその次のプレイ開始時点の期待得点の差を見れば、そのプレイによって付加された期待得点が分かる、とのことだ。

[3] ワイドレシーバー、ジョージ・ピケンズ選手が加入したことへの期待は以前書いた通り。

[4] ブランド選手の契約延長が8月31日に発表された。カウボーイズのウェブサイトによると、4年契約で総額9200万ドル(1ドル=147円で計算すると、約135億円)の複数年契約とのことである。

[5] New Cowboys LB Jack Sanborn ready to be ‘open book’ for defense after following Matt Eberflus to Dallas, Garrett Podell, CBS Sports, March 19, 2025.

[6] プレシーズンの活躍で注目を集めたジェイムズ・ヒューストン選手もいる。

[7]昨シーズンは足の負傷もあり本調子ではなかったようだが、本来の力を発揮できれば、クラーク選手はカウボーイズにとって、2005年から2013年までチームに在籍し4度プロボウルに選出されオールプロにも選出されたことのある、ジェレミア(ジェイ)・ラトリフ選手以来最高のディフェンシブタックル、という評価もある。(評価の出典はカウボーイズなどダラスのスポーツチームを主にカバーするコラムニストのボブ・スターム氏の記事。)”Cowboys Actually Did It—Parsons Is Gone,” Bob Sturm, Sturmstack, Aug. 29, 2025.

[8] オフェンスのキャプテンはQBのダック・プレスコット選手とWRのシーディー・ラム選手で、ディフェンスはDTのオディギズワ選手とセイフティ(S)のドナバン・ウィルソン選手。そしてスペシャルチームズのキャプテンはキッカーのブランドン・オーブリー選手とC.J.グッドウィン選手。”Dak, CeeDee among 6 team captains for 2025 season,” Nick Eatman, DallasCowboys.com, Aug. 31, 2025.

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