【NFL観戦記】2025年 NFL開幕戦 ダラス・カウボーイズ対フィラデルフィア・イーグルス

クォーターバックのダック・プレスコット選手は開幕戦から調子が良さそうな様子で、シーズンを通してどんな活躍を見せてくるのか、楽しみである。

 惜しかった。もったいなかった。勝ってもらいたかった。

 ダラス・カウボーイズが勝つことを期待してはいたものの、内心フィラデルフィア・イーグルズにぼろ負けするのではないか、と心配しながら開幕戦をライブで観戦した[1]

 NFLゲームパスの画面越しに両チームの選手がフィールドに入場する様子をみるにつけ、ついに今年のアメフトシーズンが開幕か、と興奮しながら見守った。試合はカウボーイズへのキックオフで始まり、いよいよシーズン最初のプレイだ、と身構えたその時、イーグルスの選手が一人フィールドに座り込み、医療スタッフに囲まれている様子が映し出された。

 その選手の表情はうつろで、負傷の深刻さがその様子から窺がえた。もう今シーズンはダメだ、といった、あきらめと達観の表情が見て取れた。敵チームながら、「ああ、残念」と口に出して言いそうになったその次の瞬間、笛がなり、ペナルティー・フラッグが宙を舞う。その後流れたビデオ映像では、図体の大きいイーグルスの選手がカウボーイズのエース・クォーターバック、ダック・プレスコット選手の前に立ちはだかり、威嚇しようとしているのか、言葉を交わしている様子が確認できた。

一体何があったのだ、と戸惑いながら[2]画面を凝視すると、イーグルスの背番号98番の選手がアンスポーツマン・ライク・コンダクトの反則で即刻退場になった旨、審判が観客にアナウンスしていた。「これ、ジェイレン・カーター選手じゃないですか?」と、当日一緒に観戦していた先輩の方に興奮しながら話しかける。

 まさかこんなことがあろうとは!一気にカウボーイズの開幕戦大番狂わせ勝利にむけて視界が開けた気がした。まさに暗いトンネルの奥に光が見えた瞬間。これはいける、今シーズンはいけるぞ、と一気にテンションが上がる。

 それにしてもカーター選手はカウボーイズのハドルの方に近寄って来た時点で挙動不審というか、一体何を考えていたのやら[3]。TVのリプレイでも、彼の口から唾が飛び出して、プレスコット選手のユニフォームの胸のあたりにヒットするのが明確に確認できて完全にクロである。フィラデルフィアの本拠地で即刻退場の処分を下した審判団の、公正で勇気あるジャッジに敬意を表したい。

 しかも、である。そこから始まったカウボーイズのドライブは胸のすくような展開で、ラン攻撃がバシバシ決まるかと思えばパスも通るわで、今年のカウボーイズは一味違うぞ、と強く印象付ける内容だった。なお、個人的に注目していたシーズン最初のプレイはピケンズ選手へのロングパスではなく、先発ランニングバックのジャボンテ・ウィリアムズ選手[4]によるランだったが、それでいきなり6,7ヤードを稼ぎ幸先の良いスタートとなった。

 そこからあれよ、あれよとカウボーイズはイーグルス陣内に攻め込み、最後はウィリアムズ選手のランでタッチダウン。これ以上ない、素晴らしいオープニングドライブであった。

 さあディフェンスはどうか。こちらはイーグルスの強力なオフェンシブラインに押し込まれて苦戦を強いられた。イーグルスがパスする時はなかなかプレッシャーがかけられず、うまくレシーバーをカバーできていても最後はクォーターバックのジェイレン・ハーツ選手のランにやられるなどして、イーグルスもあっさりタッチダウンを決める。

 そこから両チームはそれぞれタッチダウンをし、スコア14-14で迎えたカウボーイズの攻撃。ここで少しリズムが崩れ始めたような気がした。イーグルスのディフェンスがアジャストし始めたのだろうか、それまで通っていたパスがなかなか通らなくなり、カウボーイズのクォーターバック、プレスコット選手は気持ちが先走っているような印象を受けた。焦りというか、強引にパスで一気に攻めこもうと意地になっている様子というのか、血が頭に上っていたのか。

 強気というか強引でリスキーなパスをポンポンと繰り出し、カウボーイズのレシーバーやタイトエンド陣はキャッチしようと頑張るものの、成功率が低そうな厳しいコースであえなく落球するケースが目立つようになり[5]、攻撃は頓挫した。イーグルスがまたタッチダウンを決める中、カウボーイズはフィールドゴールに2度甘んじる結果となり、前半を20対21で終えた。

 後半はなんとかイーグルスをフィールドゴール1回に抑えて、反撃ムードになったところで、今シーズンから新加入のランニングバック、マイルズ・サンダース選手[6]が49ヤードのランを炸裂させる[7]。あともう一息、あと10ヤードほどでタッチダウンだったが、そこでイーグルス選手に追いつかれタックルされた。ここが運命の分かれ目だった。

 その後のプレイでサンダース選手はファンブルし、イーグルスの選手がリカバーし、カウボーイズのエンドゾーンに向けて全力疾走を開始する。そのまま行けばあわやタッチダウンか、という実にあやうい、紙一重の場面でダラスのQBプレスコット選手が見事ダイビングタックルを決め、ファインプレイで失点を防いだ。

 そこでなんと、雷雨のために試合が中断されるというハプニングがおきる。観客もスタジアム屋内に避難するよう場内アナウンスがあり、試合は結局1時間程度中断した。それも幸いしたのか、中断明けのイーグルスの攻撃をカウボーイズは押しとどめ、ポゼッションがカウボーイズに移った。

 そこから先は振り返るのがつらい。

 カウボーイズのディフェンスは粘りをみせ、イーグルスには追加点を許さなかったものの、カウボーイズのエース・ワイドレシーバー、シーディー・ラム選手の、らしからぬ落球もあり、攻めあぐねる展開となった。

 残り時間3分を切ってカウボーイズはなんとか逆転のチャンスを得る。サードダウンに新加入のワイドレシーバー、ジョージ・ピケンズ選手のサイドライン際のナイスキャッチもあり、ドライブは継続できたものの、最後はラム選手が難しいコースのパスに向けて飛び込み、ダイビングキャッチを試みるものの失敗に終わり、イーグルスにポゼッションが移った。その後イーグルスはファーストダウンを獲得し、万事休す。

開幕戦では不本意な場面もあったとはいえ、パスキャッチを7回成功させ合計110ヤードを獲得する活躍を見せたシーディー・ラム選手。ジャイアンツ戦での活躍にも期待がかかる。

 最終スコアは20対24でカウボーイズは惜しい一戦を落としてしまった。カーター選手の一発退場という、まさかのハプニングを活かしきれず、もったいない試合だった。

 ただ、昨シーズンとは違いラン攻撃が頼りになりそうな兆しは見えたし、去年はなかなか発揮できなかったパンチ力のあるラン攻撃に今シーズンはなりそうである。

 試合後半のパスプロテクションはやや不安定だったが、オフェンシブラインも強さを見せてくれたし、トレードでパーソンズ選手との交換で入団したケニー・クラーク選手は相手QBにプレッシャーをかけていたし、相手オフェンシブラインを押し返し、チームのラン・ディフェンスに貢献していたように見受けられた。新加入の期待の星、レシーバーのピケンズ選手は相手ディフェンスの反則を誘ったり、肝心な場面でファーストダウンにつながるパスキャッチも決めたりして、その実力の片鱗が垣間見えた。

心配な点としては、ディフェンシブ・タックルのマーズィ・スミス選手がベンチ入りを果たせなかったことで、2週目以降に試合出場機会があるのか不透明である。あとはエースレシーバーのラム選手の開幕戦で時折見せた、疲れたような表情や落球がきがかりだ。「落球」というには厳しい、キャッチできていたらファインプレイ、という状況が多かったように見えたが、一方でラム選手なら普通キャッチするだろう、と思えるような場面でパスが決まらないこともあり、見ていて意外に思うこともあった。ベンチで休んでいた際にも、これから反撃だ、というムードであってもまだおかしくないような局面で、疲労感があったのか表情がどこか冴えず、見ていて心配になった。あとは、ピケンズ選手がアンネセサリーラフネスの反則を取られた場面はもったいない気がした。

ワイドレシーバーのジェイレン・トルバート選手は、以前は背番号18番を付けていた。昨シーズン、新背番号1番を背負うようになり、ピッツバーグ・スティーラーズ相手に逆転のタッチダウンを決めた活躍は記憶に新しい。開幕戦は静かな出だしとなったが、ラム選手とピケンズ選手に注目が集まる中、トルバート選手の活躍が鍵を握るような局面も出てきそうだ。

 ということで、チームとして今後の成長と飛躍の糧にしてもらいたいような結果に終わった開幕戦であった。こうなってくると、早くシーズン一勝目が欲しいところである。

 今週、カウボーイズはホームでニューヨーク・ジャイアンツと対戦する。スーパーボウル優勝経験のあるクォーターバック、ラッセル・ウィルソン選手を獲得し、リーグ有数のワイドレシーバーであるマリク・ネイバー選手を擁するジャイアンツは昨年より手ごわい相手に見える。

 カウボーイズは 、開幕戦の試合結果を引きずらないようにして日本時間9月15日(月曜日)午前2時キックオフのシーズン2週目の試合を迎えたいところだろう。新生カウボーイズオフェンスが力強いラン攻撃と爆発力あるパス攻撃を発揮してくれることに期待したい。ディフェンスには開幕戦の後半でみせてくれたような強固なランディフェンスを期待したい。それに加え、相手QBにプレッシャーをかけてターンオーバーを奪うような流れになれば理想的だが、実際はどのような試合展開になるのだろうか。今から楽しみである。


[1] 日本時間9月5日(金曜日)にイーグルスの本拠地で行われたこの試合は、NFL全体の開幕戦でもあった。

[2] シーズン最初のオフェンスのプレイがオフェンスの反則、といった縁起でもない展開だけは勘弁してもらいたい、とハラハラしながら画面を凝視した。

[3] 試合後の記者会見でのこの件について質問されたプレスコット選手によると、カーター選手が、カウボーイズのライトガードで期待の新人タイラー・ブッカー選手に色々ちょっかいを出していたのが気になり、その二人の選手のそばで様子を見守っていた、とのことだ。その時唾を吐きたくなったので、人に当たらないように地面に向けて唾を吐いたところ、カーター選手が「俺にむけて唾を吐こうとしたのか」と言いがかりをつけながら詰め寄ってきたそうだ。プレスコット選手は、これから試合でプレイしようとしているときにそんなことするわけないだろう、という趣旨の返答をしたところ、カーター選手がプレスコット選手に対し唾を吐いた、という経緯だったらしい。カーター選手は試合後、自身が人に向けて唾を吐くにいたった経緯について詳しく説明することは避けた。

“Dak Prescott: Postgame Week 1 #DALvsPHI | Dallas Cowboys 2025,” @DallasCowboys, YouTube, Sept. 5, 2025.

“Jalen Carter discusses being ejected after spitting on Dak Prescott in Eagles’ opener | SportsCenter,” NFL on ESPN, YouTube, Sept. 5, 2025.

[4] 2021年~2024年までデンバー・ブロンコズに所属していた。昨年カウボーイズで先発ランニングバックを務めたリコ・ダウドル選手がカロライナ・パンサーズと契約し、カウボーイズは替わりにウィリアムズ選手とサンダース選手と契約した時はポジションが昨年より強化されたのか不安に思ったが、第一週の両選手の活躍は心強くかんじられた。

[5] なお、各選手のプレイ毎のパフォーマンスを評価して数値化しているデータ分析業者プロフットボール・フォーカス(PFF)によると、一部のチームがすでに2週目の試合を終えた2025年9月14日時点で、プレスコット選手の2025シーズン評価は90.0でリーグ2位の好成績で、評価対象になったクォーターバック33人中、上から2人目に位置している。各種記事を読んでも、プレスコット選手の大胆さとパスの正確さを賞賛する声が多いように見受けられた。(一例としてタイトエンドのルーク・スクーンメイカー選手がサイドライン際でジャンプしても取れなかったパスは、ディフェンダーの隙間を突いた絶妙なコースではあったものの、キャッチできたらファインプレイものだったと思うが、それを落球とみられてしまうのはさすがに厳しい世界である。)

[6] 2019年~2022年までイーグルスに在籍していて、2023年~2024年はカロライナ・パンサーズに所属していた。

 

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