ダラス・カウボーイズにとって久しぶりのマンデーナイトの試合である。日本時間11月4日の午前11時過ぎにNFLゲームパスを開くと、第2クオーター残り5分10秒の場面でスコアは0対10。アリゾナ・カージナルスがリードしていた。
しかもカウボーイズがボールをファンブルしたのか、ちょうどターンオーバーでポゼッションがカージナルスに移ったところで、カージナルスは自陣35ヤードライン近辺から攻撃を始めようとしていた。観戦する意欲は早くも減退し、いったんアプリを閉じた。
その後、ダラスのプロスポーツをカバーする独立系コラムニスト、ボブ・スターム氏のサブスタックのチャットを覗くと、ダラスがパントをブロックしたとの投稿があるではないか!おおっ、流れが変わったか、と期待しゲームパスを再び開くと、7対17でカージナルスが相変わらず10点差でリードしていた。得点できたし0対10よりはいいか、と思いつつ、ディフェンスがすでに17失点している点に不安を覚える。後半も同じ失点ペースだとすると、34失点。この日のダラス・オフェンスに、34点以上取る力はあるのだろうか?
カウボーイズのキックオフで後半は始まり、キックオフをカバーする選手達は相手に向かって飛び掛かかってタックルしにいっていて、そのガッツあふれるプレイに少し勇気づけられた。
少なくともスペシャルチームは気合が入っていそうだ、と自分を慰めたのも束の間、後半のカージナルス・オフェンス最初のプレイはパスで、右側からフィールド中央に向けスラント気味に駆け抜けてきたカージナルスのレシーバー、背番号14のマイケル・ウィルソン選手に、クォーターバックのジャコビィ・ブリセット選手[1]が完璧なパスを通した。
ボールを受けたウィルソン選手の半径2ヤード以内に、カウボーイズのユニフォームを着た選手が一人もいない[2]。なんでこうなる。ウィルソン選手はパスをキャッチし、一気にカウボーイズ陣内に進入していく。ハーフタイムが終わり、後半は追い上げるぞ、的ムードのはずなのに、なんでこうなる!
ちょうど正午前の時間帯で、外食中に得意気に携帯で観戦していたものの、そのプレイを観た瞬間、フラストレーションと恥ずかしさがこみ上げてきて、思わず携帯カバーを閉じてしまった。
最終スコアは17対27で、カウボーイズは二連敗を喫した。惨敗に限りなく近い完敗に終わり、カウボーイズの今シーズン通算成績は3勝5敗1分けで、来週のバイウィークを前に二連敗という、最悪の形で長めの休憩[3]に入ることとなった。
話は飛ぶが、2010年以前のサッカー日本男子代表はワールドカップのアジア予選のたびに、出場権を獲得するのはもはや絶望的、といった状況に必ず一度は追い込まれていた気がする。今のダラス・カウボーイズは、まさにそのような、絶望的な領域に転げ落ちてしまったような印象である。
逆境をはねのけるだけの強靭性があるのかどうか、今まさに試されている気がするが、今シーズンの残りスケジュールを考えると、カウボーイズはこのあと1勝もできないのではないか、と心配になってくる。
次戦、バイウィーク明けのシーズン第11週はラスベガス・レイダーズの本拠地での試合となるため、おそらくレイダーズが優勢とみなされるのではないだろうか。そこでレイダーズに負けた場合、その後の対戦相手は、フィラデルフィア・イーグルス、カンザスシティ・チーフス、デトロイト・ライオンズ、ミネソタ・バイキングス、ロスアンゼルス・チャージャース、と強豪ぞろいのため、余裕で6連敗できてしまいそうな状況である。
その後、ワシントン・コマンダースとニューヨーク・ジャイアンツとのアウェイでの試合が続き、カウボーイズのレギュラーシーズンは幕を閉じる。コマンダースの先発QBジェイデン・ダニエルズ選手は左ひじの負傷で今シーズ中に復帰できるかは不透明な状況だが、マーカス・マリオタ選手が先発したとしてもカウボーイズのディフェンスは苦戦するだろうし、今シーズンすでにカウボーイズに一度負けているコマンダースとしては、本拠地での試合は絶対落としたくないだろう。
ジャイアンツには普通なら勝つチャンスはありそうだが、その時点でカウボーイズが7連敗中だとすると、チームの士気はボロボロだろうし、試合に勝てる力が残っているか怪しい状況になっていそうである。
ということで、3勝13敗1分けという、1989年の1勝15敗以来となる超低空飛行[4]に終わる可能性も覚悟せざるを得なくなるような、今シーズン観戦した中では最も失望させられた試合だった。
NFLゲームパスは来年延長せずに、向こう5年ぐらい[5]はカウボーイズの動向を細かくフォローするのもやめようか、という気にさえさせられた。
さて、そうやって迎えた試合の翌朝、ビッグ・トレードのニュースが飛び込んできた。ニューヨーク・ジェッツからカウボーイズはリーグ有数のディフェンシブ・タックルであるクイネン・ウィリアムズ選手を獲得し、ジェッツはカウボーイズの2026年ドラフト2巡目指名権、2027年の1巡目指名権、そしてカウボーイズが2023年ドラフト1巡目で指名したディフェンシブ・タックル、マズィ・スミス選手を獲得した。
それに加え、カウボーイズはシンシナティ・ベンガルズに2026年7巡目指名権を譲るかわりに、ベンガルズからミドルラインバッカ―のローガン・ウィルソン選手を獲得した。
第9週が終わった時点で今シーズンの失点はベンガルズが300失点でNFL32チーム中、32位で最多の失点数である。カウボーイズは277失点でリーグ31位とベンガルズとディフェンスの最下位争いをしているような状態[6]である。そのような中、ウィルソン選手は出場機会が減少したため、トレードの希望を出していた、との事である。リーグ最多失点中のベンガルズから、出場機会が減っていたディフェンスの選手を獲得して、果たしてプラスに働くのか、やや疑問に思う面もあるが、カウボーイズ・ディフェンスの中央を安定させ、ビッグ・プレイを繰り出してくれることを期待したい。
最大の目玉のウィリアムズ選手の獲得は嬉しいニュースである。ラン・ディフェンスの強化に繋がる事を期待したい。このトレードについては、プレイオフ出場が厳しい状況のカウボーイズがドラフトの2巡目や1巡目指名権を手放すのはバカバカしい、という見方もある。また、これでもマイカ・パーソンズ選手を手放したことのマイナス面を帳消しにしたことには決してならないだろう。
ただ、クォーターバックのダック・プレスコット選手が調子よくプレイしているシーズンがこのまま過ぎてしまうのはもったいないし、今シーズン大活躍中のレシーバー、ジョージ・ピケンズ選手が来シーズンもカウボーイズのユニフォームを着ている保証はない。オフェンスの状態がいいだけに、なんとかプレイオフ出場にこぎつけて、あとはチームが波に乗ってくれることに賭けてみるのは悪い手ではない[7]気がする。
これらのトレードに加え、ラインバッカ―のデマーヴィオン・オーバーショウン選手と期待の新人コーナーバックのシャボン・レベルJr.選手がバイウィーク明けのレイダーズ戦から出場できそうな見込みのようで、ディフェンスのパフォーマンスは今後向上しそうな気配である。
一方、ここにきて心配なのはオフェンシブ・ラインの調子だ。前の週にデンバー・ブロンコズ相手に2サックを許し、カージナルスには5サックを喫した。
レイダーズ戦では、ディフェンスの奮起と共にこのチームの生命線とも言えるオフェンシブ・ラインが安定し、力強さを発揮してくれること、そしてチーム全体が、今シーズンの見通しをガラッと変えてくれるような、清々しいプレイぶりを見せてくれることを期待したい。
[1] カージナルスの走れるクォーターバック、カイラー・マレー選手は足の怪我でこの試合も欠場した。その後、カージナルスのヘッドコーチ、ジョナサン・ギャノンは仮にマレー選手が回復したとしてもブリセット選手が先発QBを続けることになるだろう、という趣旨の発言をしていた。今のカウボーイズ・ディフェンスは対戦する相手QBの評判やキャリアの行方を好転させるような存在になってしまっている。
[2] まわりに3人ダラスの選手がいたようだが、3人とも2ヤード以上離れた場所にいたように見えた。
[3] 態勢を立て直すためにちょうどいい、という解釈も可能かもしれないが。
[4] QBのトニー・ロモが負傷のため12試合欠場した2015年の4勝12敗のシーズンは、1989年以上に長く感じられた。1989年はジミー・ジョンソンがヘッドコーチに就任し、トロイ・エイクマンが入団した1年目で、先行きへの期待感が強かった。
[5] 1997年から、3シーズン連続で5勝11敗に終わった2002年までは、新聞記事で読む程度のフォローの仕方で、特にマイケル・アービン選手が引退した1999年以降は見るのも無残な状況だった。2003年にビル・パーセルズがヘッドコーチに就任してから再び試合を見るようになった。
[6] データの出典はPro Football Reference: https://www.pro-football-reference.com/years/2025/opp.htm
[7] これぐらいはやらないと、前述したように本当にファンの離反を招くことをオーナーやフロントは懸念したのでは、と考えてしまう。本気で今シーズンに賭けているのであれば、マイカ・パーソンズ選手をトレードで 放出すべきではなかった。(あのトレードが決まった後は、ひょっとするとプラス面もあるのでは、と自分も期待してしまったが甘かった。マイカ・パーソンズ選手は周りの選手のパフォーマンスも引き上げる、まさにフォース・マルチプライヤー的な存在だと、後になって実感した。)
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