海外の書評記事で最近取り上げられ、興味を惹かれた三冊:
- 1929: Inside the Greatest Crash in Wall Street History—and How It Shattered a Nation by Andrew Ross Sorkin, Viking, 567 pages. (New York Review of Books)
- Japanese Gothic by Kylie Lee Baker, Hanover Square Press, 347 pages. (New York Times)
- Good People, by Patmeena Sabit, Crown, 386 pages. (New Yorker)
書評① Tick, Tick…Boom! by Jacob Weisberg, The New York Review of Books online edition, March 26, 2026.
紹介されている本:1929: Inside the Greatest Crash in Wall Street History—and How It Shattered a Nation by Andrew Ross Sorkin, Viking, 567 pages.

今回気になった一本目の書評は『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』(NYRB)の3月26日号に掲載された記事。1929年のウォール街大暴落を振り返る、ノンフィクション作品が紹介されている。
その本、『1929:ウォール街における史上最大の暴落の裏側と、それがいかにして国を粉砕したか』[1]の著者はニューヨーク・タイムズで金融業界の取材を長年担当してきたアンドリュー・ロス・ソーキン。1929年と1987年のウォール街大暴落に匹敵し、世界的な株式市場の崩落へとつながった、2008年のリーマン・ショックへの米国政府の対応について詳述した『ツー・ビッグ・ツー・フェイル』を著したことでも知られる。
この作品を紹介するに当たって、書評記事の著者であるジェイコブ・ワイスバーグは、近年の生成AI関連株を巡る投資熱の高まりと、過去に発生した投機的バブルの事例を比較して論じている。ワイスバーグによると、通常、投機的バブルが発生する時は、投資家の間でバブルの存在を否定する機運が広がりやすい。しかし、今回の「AIバブル」的な投資熱と、そのような過去の事例が異なるのは、AI業界の当事者自身がバブルの発生を認めている点にある、とワイスバーグは指摘した上で、次のように述べている:
「ベンチャー資本家と技術者は(株価の)バリュエーションが膨らみ、期待が過剰なまでに盛り上がり、膨大な額の資本が潜在的な可能性と幻影を追いかけている事を認めている。バブルの存在を否定するのではなく、それを不可避な現象、もしくは将来のブレイクスルーのために不可欠なものかもしれないと捉えている」[2]
バブルの長期的な効用について、ワイスバーグは経済学者カーロタ・ペレズの主張を紹介している。その主張によると、広範な用途を持つ新技術が登場する時、その初期段階において大きなバブルの発生を伴う事が多い、との事である。そのような投機熱が盛り上がり過剰にインフラが造成されると、後にそれが複数の産業を支える屋台骨となる事もあるそうだ。たとえば、1840年代の英国の鉄道ブームの際には、交通需要を超える過剰な線路網が敷れたものの、それは後の産業資本主義を支える物流システム構築の一助となったし、1990年代の「ファイバー・オプティック・マニア」が残した過剰なキャパシティは、インターネットの勃興へとつながったという。このように、バブルは短期的には多くの無駄を残すが、その遺産は、長期的に見た場合、産業を変革させるほどの力を発揮する事もある、とワイスバーグは指摘する。
ただ、米国の生成AI関連企業が近年増設しているデータセンターは、その時点での最先端の半導体を使用しているため、数年もすれば時代遅れの技術で作られた施設となってしまうリスクを抱えているという。(足元のAIブームにおける設備投資額の大部分は、大規模言語モデルの稼働に必要なエヌビディアの半導体の購入に充てられているが、エヌビディアは2年毎に性能が大きく向上した半導体をリリースしている、とワイスバーグは指摘する。)そのような背景があるため、今回のAIフィーバーを通じ、将来役に立つインフラが社会に残るかどうかは不明、とのことである。
さて、ソーキンの著作『1929』については、当時の状況を特定の人物の視点を通じて描いている点に特徴がある、とワイスバーグは指摘する。1929年の株式暴落を、その時代に生きた個人がどのように感じたのかという、心理的側面に焦点を当てた作品、とのことである。なぜ暴落に至ったのかといった背景の分析より、その危機がどのように感じられたかという点に著者の関心がある、とワイスバーグは評している。
歴史的な事件を、その時代に生きた個人の視点から振り返えってみるという手法は、まるで読者自身がその現場を目撃しているかのような、迫力ある描写に繋がりそうである。
ソーキンの著作『ツービッグ・ツー・フェール』にはそのような臨場感のある描写がふんだんに登場する。その代表的な例を挙げると、2008年9月15日にリーマン・ブラザースが破綻した後、他の大手投資銀行も潰れるのではないか、という疑心暗鬼が広がる中、当時のヘンリー・ポールソン財務長官が公的な不良資産買取スキームの設立に向けて議会関係者を必死に説得しようとする場面がある。その当時、議会関係者の間では、その救済措置を利用する金融機関の経営陣の報酬に制限を課すべき、との意見が強く、話がなかなかまとまらない状況だった。そういったなか、顔を真っ青にしたポールソンが下院議長ナンシー・ペロシの執務室に入り、ごみ箱の中に空吐きする様子が描かれている。
リーマンの破綻とその後の金融危機が世界経済に与えた影響を考えると、吐きたくなるぐらいの疲労やプレッシャーを感じて当然かもしれないが、当局者もそこまで追い込まれていたのか、と驚いたことを思い出す。
『1929』にも、その場面に匹敵するような、ヒリヒリと緊迫したエピソードが登場するのだろうか、気になるところだ。
書評② The Novels Everyone Will Be Talking About in 2026 by Miguel Salazar and Laura Thompson, New York Times online edition, Updated Feb. 13, 2026.
紹介されている本:Japanese Gothic by Kylie Lee Baker, Hanover Square Press, 347 pages.

二本目の書評が取り上げている本は4月に出版予定の本で、200年前の日本と現在の日本を舞台とする小説である。
ニューヨーク・タイムズ紙の『2026年に出版予定の、最も期待を集めている本のリスト』という特集の中で取り上げられているこの一冊の題名は『ジャパニーズ・ゴシック』。著者カイリー・リー・ベイカーの7作目にあたる小説で、4月に出版が予定されている。
小説の舞台は1877年と2026年の日本。その二つの時代の、二人の人物を軸に物語は展開していく。一人目の主人公は、官軍の追手を逃れ、剣シダに囲まれた地方の家に身を隠す「セン」という名の女武者で、二人目は同じ住宅に2026年に駆け込む「リー・ターナー」というアメリカ人の大学生。その大学生はアメリカで大学の寮のルームメイトを殺害した後、ニューヨークから逃亡し、父親の新しい住処である、その剣シダに囲まれた日本の家に逃げ込む。このうち一人は幽霊で、片方のストーリーは偽の物語、なのだそうだ。
以前、2003年の映画『ロスト・イン・トランスレーション』を見て、東京はアメリカ人の目にはこんなにモダンな感じに見えるのか、と新鮮な気がしたが、本作品で著者が現在の日本や日本人をどのように描写しているのか、興味を覚える。
書評③ Briefly Noted The New Yorker online edition, March 2, 2026 issue.
紹介されている本: Good People, by Patmeena Sabit, Crown, 386 pages.

三本目の書評記事は雑誌ニューヨーカーの3月2日号に掲載された短い記事で、紹介されているのは『いい人達』(Good People)という、著者パトミーナ・サビットのデビュー作である。
悲劇的な出来事により破壊された家族に関する物語で、オーラルヒストリーの形式で描かれている小説との事である。
アフガニスタンからの難民として1990年代後半に米国に移住したカップルが主役で、二人はアメリカで裕福な生活を送るようになり、バージニア州の郊外で四人の子供を育て上げる。家族の友達、弁護士、親戚等、そのカップルを知る人達の証言で構成されている作品で、物語の中心を占める破滅的事件に至った経緯について、その知人達はそれぞれ自身の仮説を語り出す。
一旦その破滅的事件の性格が明らかになると、本書の焦点はアメリカで子供を育てる事の意味を問い直さざるを得なくなった、そのアフガニスタン系移民社会に移る、とのことである。
破滅的な事件とは一体どのような内容で、どのような経緯で起きたのだろうか。気になる物語だ。
[1] 題名の日本語訳は自己流の訳です。原題: “1929: Inside the Greatest Crash in Wall Street History—and How It Shattered a Nation”
[2] “Venture capitalists and technologists openly acknowledge that valuations are inflated, expectations are overblown, and vast sums of capital are chasing both promise and illusion. Rather than contesting the bubble’s existence, they embrace it as not only inevitable but perhaps even essential to the breakthroughs ahead.”
(Source: “Tick, Tick..Boom” Jacob Weisberg, New York Review of Books.)
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