【書評】2034: A Novel of the Next World War, By Elliot Ackerman and Admiral James Stavridis, Penguin Books, 2021, 313 pages.

十年後の世界。2034年3月12日。中国が領海権を主張する南シナ海の南沙諸島、ミスチフ・リーフ沖を米海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦3隻が「航行の自由」パトロールを実施。その際、近海を航行中の国籍不明の漁船から火災が発生。米海軍小艦隊の司令官は不審に思いつつ、漁船の救助を命じる。乗船し、乗組員を拘束すると、その船は使途不明のハイテク機器を積んでいたことが明らかに。その直後に大型空母を含む、中国海軍の艦隊が接近。米艦船同士の通信を妨害・遮断した上で、漁船の解放を要求。米艦隊は拒否し、必死に対峙するも、味方同士の通信は信号旗という原始的な手段に頼らざるを得ず、戦力差以上に圧倒的に不利な形勢に・・・

同時刻。ホルムズ海峡上空、米軍のF35戦闘機一機がイランの領空内、バンダー・アバス海軍基地近郊を飛行中。任務は新型ステルス技術のテスト。その最中、操縦が突然利かなくなり、何者かによって飛行コースがイラン内陸部方向に変更される。必死に操縦を取り戻そうとするものの、イラン領土内への着陸を余儀なくされ、パイロットはイラン側に拘束される・・・

1980~90年代の米ソ対立をテーマにした、トム・クランシーの軍事小説を彷彿とさせる緊迫したストーリー展開。久しぶりに時間を忘れて作品の世界に没入した。

その虚構の世界では南シナ海とホルムズ海峡の事案が発端となり、米中戦争が勃発。イラン、ロシア、インドの関与と介入を誘発しながら、両大国は淡々と、お互いの事前の軍事計画に従い、報復の階段を駆け上がっていく。軍事スリラーというより軍事ホラー。こわいもの見たさでどんどん先が読みたくなった。

共著者はエリオット・アッカーマン氏とジム・スタヴリディス氏。アッカーマン氏はイラクとアフガニスタンで従軍経験のある元米海兵隊員で作家。スタヴリディス氏は元NATO軍最高司令官。両者の経歴が、臨場感あふれる描写とシナリオに説得力を持たせている。

本作品を読み、いかに自分の、日本の安全保障に関する精神的な安心感が、米国に依存しているかを実感した。読み進めるにつれて、天地が揺らぐような衝撃を感じた。

各国の登場人物の描写は個性的で特長がある。中国側の登場人物は自信と博識を兼ね備えつつも、国内の厳しい権力闘争にさらされており、どこか儚さを感じさせる描写となっている。米国側の主要登場人物の一人は、国家安全保障担当副補佐官。激務との両立に苦戦しながら、一人娘を育てようとするその姿からは、強大な軍事力を操る冷徹な現実主義者、といったオーラは感じられない。むしろ脆弱性を抱えた市井の人、といった雰囲気が滲み出ている。インド系米国人で、この小説のテーマでもある多極化された世界を象徴する人物でもある。一方、小説の後半で活躍する、この副補佐官の親戚にあたるインド軍関係者は、大局観を常に持ち、どこか余裕と貫禄を感じさせる人物として描かれている。

本の粗筋に戻る。米小型艦隊が中国海軍の空母艦隊に無力化される中、中国側のワシントン駐在武官がホワイトハウスに事前通告なく訪問。国家安全保障担当副補佐官が応対。M&Mチョコレートを頬張りながら余裕綽綽の駐在武官を前に、毅然と対応しようとするも、最後まで完全に相手に主導権を握られたまま。この両者のやりとりの描写には緊張感があり、読み応えがあった。

さて、日本はどのように描かれているのか。横須賀が登場するが、あくまで米艦船の母港、場所として登場するだけで、自衛隊や日本の政策担当者は登場せず、日本は当事者としては描かれていない。

この本には2054: A Novelという、AI技術の発展等をテーマにした続編が今年3月に出ているので、そちらも読んでみたい。

前述したトム・クランシー氏の著作の一つに、架空の日米戦争シナリオを扱い1994年に出版された、Debt of Honorという本がある。以前所有していたが日米の軍事衝突というストーリーを読むのがつらくて、結局ほとんど読まずじまい。ちょうど日米貿易摩擦問題が盛んになっていた時期。当時の日米関係をとりまく雰囲気を垣間見ることができそうだし、日本人がどのように描かれていたのかも気になる。こちらもいずれ読んでみたい。

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