第4クォーター開始直後、6対28と3タッチダウン以上の差をつけられたカウボーイズ。ボルチモアの38ヤードライン近辺まで攻め込んだものの、サードダウンを迎え、ファーストダウンを得るには14ヤード必要な状況。タイトエンド(TE)のジェイク・ファーガソンに向けたパスは無常にも地面に落ち、インコンプリートに終わる。どこか見ていてちぐはぐなプレイで、とてもフォースダウンにギャンブルをして14ヤード獲得できそうな雰囲気ではなく、フィールドゴールを蹴った方がいい、ように思えた。
成功したとしても9対28で、結局3回得点しないと逆転できない状況はそれでも変わらないが(タッチダウンと2ポイント・コンバージョン×2で16点+フィールドゴールで3点、もしくはタッチダウン3回+1ポイント・コンバージョンを最低1回、で合計19点)ここでフォースダウン・ギャンブルするのは非常になげやりな選択だと感じた。ここはとにかく得点しておいて少しでも点差を縮めてからディフェンスに運命を託した方が少しは士気が上がるのでは、と考えた。
ヘッドコーチのマイク・マッカーシーはここでフォースダウン・ギャンブルを決断。クォーターバックのダック・プレスコットのパスはワイド・レシーバーのブランディン・クックスを狙ったが、見るからにボールの勢いが足りず、ボルチモアのディフェンシブ・バック(DB)の真正面に。インターセプションか、と思われたが、ここでクックスが反則覚悟で後ろからDBを掴み引きずり倒したことでインターセプションは逃れ[1]、ダラスはパントして攻撃権をボルチモアに渡した。
この時点でフォースクォーターは丸々残っていたが、いかんせん6対28。ダラスの本拠地なのに、ボルチモアのファンが大勢乗り込んできたのか、むしろボルチモア向けの応援の方がTV越しにも聞こえてくるようなかなりアゲインストな状況。
ディフェンスは先週の反省をしたのか疑問に思うほど、前半は3タッチダウンを許すわ、後半開始早々タッチダウンを許すわ、この時点でボルチモアのラン攻撃での獲得ヤード数は220ヤードぐらい[2]で先週セインツに許した190ヤードをすでに上回っているわ、などなど、清々しいほどの笊ディフェンスっぷり。
アメリカで試合を放映していたフォックスは、トム・ブレイディが解説を務めていたこともあり、第3クォーター残り55秒でダラスが6対28で負けている場面で、観客の一人が来ていたTシャツをしきりに映していたが、そこに書かれていた「第3クォーター残り2分12秒、3対28,ニューイングランド対アトランタ[3]」という過去にNFLで実際にあった奇跡的な大逆転の事例だけが、希望のよりどころのような状況だった。ほぼ絶望的な状況だったわけで、ここで観戦を中断した。
数時間後、結果を見ると、なんと25対28!負けたものの、次の試合につながるのでは[4]、と期待させる素晴らしい粘りを見せていた。
また、ダラスのチームリーター的立場の試合後のコメントも興味深かった。
プレスコットは、木曜日の練習でオフェンスはどこか集中力を欠いていた、という主旨の発言をしていた。よくよく読んでみると、自分の事なら「自分でコントロールできる」ものの、他の選手も必要な事を行っているかどうか、練習での一場面の事に気を取られすぎていないか、自分がもっと気を配る必要がある、という風な事を述べていて、他の選手に向けられたメッセージであるようにも読める。普段、自分のチームの選手の批判はめったにしないプレスコットとしては非常に珍しい発言のように思えて、目を引いた。
また、ディフェンスではベテランのディフェンシブエンド(DE)のデマーカス・ローレンスが、自身も含め、選手はコーチに教えられた事を実行し、チームの作戦に沿ってプレイしないといけない、「リトルリーグのようなプレイはやめ、プロフットボールのプレイをする事」ができれば大丈夫だ、と述べていた。ローレンスは普段そんなにペラペラしゃべらない選手だが、ベテランで常にプロボウル級の活躍をする、安定感と実力を備えた彼が発言する時は内容に重みがある。
そのローレンスと試合中にサイドラインで言い争いをしていたと報じられた[5]のがスター選手で、今年5月にはいつの間にか来日して相撲部屋で相撲を体験していた[6]、ラインバッカ―(LB)のマイカ・パーソンズだが、彼の試合後のコメントも興味深かった。パーソンズによると、11人の選手[7]が連動してプレイする必要があり、スーパーマンは1人もいらない、とのこと。彼自身もスーパーマンになりたいとは全く思っていない、という主旨の発言をしていた。
こういうチーム内の意見対立は下手をするとチームの分裂につながりそうだが、今回の一連の発言は、若い選手が多いこのチームの、緩んでいた雰囲気を引き締め、アカウンタビリティを向上させるなどの好影響が期待できそうだ。
ということで、日本時間金曜日のニューヨークでのカウボーイズとジャイアンツの試合は、お互い1勝2敗同士ながら、特にダラスにとっては重要な意味を持ち、俄然注目の一戦となってきたように思う。
[1] ベテランの選手らしい、ナイスプレーだと思った。
[2] カウボーイズの公式サイトによると、最終的にはボルチモアは45回ラン攻撃をして274ヤード獲得した、とのこと。平均獲得ヤード数は6ヤードの計算になり、パスする必要なかったのでは、と思えてくる。ただ、パス攻撃も効率的で、15回投げて12回成功し、182ヤード獲得している。
[3] 2016年シーズンのスーパーボウルLI(51)でその点差をひっくり返し、ブレイディとペイトリオッツは大逆転勝利を収める。アトランタはそのような大量リードを抱えながら、時間稼ぎのラン攻撃に頼る事をせずパス攻撃を続けた為、当時オフェンシブ・コーディネーターだったカイル・シャナハン(現49ersヘッドコーチ)およびヘッドコーチのダン・クイン(現ワシントン・コマンダーズのヘッドコーチで、ダラスの前ディフェンシブ・コーディネーター)は批判を浴びた。ただ、そのような試合終盤のオフェンスのアグレッシブなプレイコールに対する批判は結果論で、アトランタのディフェンスが試合後半に疲弊していた事も逆転負けにつながった、と指摘する下記のようなコラムニストもいた。
“Film review: The Falcons didn’t blow the Super Bowl. Bill Belichick took it from them.” By Steven Ruiz, For the Win, Feb. 14, 2017, Accessed on Sept. 23, 2024.
[4] 一方で、現地時間の木曜日に対戦するニューヨーク・ジャイアンツの方は、ダラスが初戦で完勝したクリーブランド・ブラウンズ相手に辛勝していて、ジャイアンツの方も気持ちよくホームでの試合に挑めそうな状況ではある。
[5] “Cowboys downplay sideline spats, blaming it on frustration in the moment,” By Charean Williams, Pro Football Talk, September 22, 2024.
[6] サンケイスポーツの記事によると、5月4日には、東京ドームでの巨人対阪神戦の始球式にも参加していたようだ。
[7] ディフェンス側の選手の事を主に指しているようだった。プレスコット、ローレンス、パーソンズの発言についてはカウボーイズ公式サイトの以下の記事を参照した。
”Dak: Offense lacked ‘professional’ approach vs. Ravens,” By Nick Eatman, DallasCowboys.com, Sept. 22, 2024.
“Micah Parsons, DeMarcus Lawrence, Trevon Diggs honest after Cowboys failed comeback,” By Patrik Walker, DallasCowboys.com, Sept. 22, 2024.
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