【気になる書評】The World’s Worst Bet, The Doom Loop, Heartland

海外の書評記事で最近取り上げられ、興味を惹かれた三冊:

  • The World’s Worst Bet: How the Globalization Gamble Went Wrong (and What Would Make It Right) by David J. Lynch, Public Affairs, 416 pages. (Foreign Affairs)
  • The Doom Loop by Eswar Prasad, Basic Venture, 368 pages. (Economist)  
  • Heartland: A Forgotten Place, an Impossible Dream, and the Miracle of Larry Bird, By Keith O’Brien, Atria Books, 384 pages (Wall Street Journal)

書評① Economic, Social, and Environmental by Barry Eichengreen, Foreign Affairs online edition March/April 2026.

紹介されている本:The World’s Worst Bet: How the Globalization Gamble Went Wrong (and What Would Make It Right) by David J. Lynch, Public Affairs, 2025, 416 pages.

今回紹介する一本目の書評は国際政治専門誌のフォーリン・アフェアーズの3/4月号に掲載された作品である。記事の執筆者はアメリカの経済学者で、国際金融システムに関する著作も多い、バリー・アイケングリーン氏。

その彼が取り上げた本は昨年出版された 『世界における最悪の賭け:グローバル化のギャンブルがいかにして失敗したか(そして、それを成功へと反転させるための処方箋について)』[1]“The World’s Worst Bet: How the Globalization Gamble Went Wrong (and What Would Make It Right)” という一冊だ。1989年にベルリンの壁が崩壊して以降、急速に進んだグローバリゼーションの波に対し、批判的な目を向けた一冊だ。

書評を執筆したアイケングリーン氏によると、1990年代に加速した経済のグローバル化の動きは二つの前提の上に立脚していたという。一つ目は世界各国が市場を開放する事は万人に利益をもたらす、という発想。二つ目は中国の世界経済への統合が進めば中国は自国の政治システムの自由化を余儀なくされる、という期待。著者が示しているように、これらの期待はいずれも実現しなかった、とアイケングリーンは指摘する。中国が世界貿易機関(WTO)に2001年に加盟して以降、中国からの津波のような輸出にさらされたアメリカや他の先進国においては、製造業で働く人々の相当部分が職を離れることにつながったという。一方、中国の指導者達は、多国籍企業やインターネットなど、グローバル化の推進役が国内に流入してきてからも、リベラル化に向けた改革の動きに抗うことができた、とアイケングリーンは述べている。

本書の著者のデイビッド・リンチ氏は貿易やグローバリゼーション関連の取材を担当するワシントン・ポストの記者で、本書のプロローグでは中国やロシア、そしてアジア通貨危機後のインドネシア等を取材した経験について触れている。

書評② Of doom and gloom: Should globalists give up? Economist, Feb. 7-13, 2026, p.73.

紹介されている本:The Doom Loop by Eswar Prasad, Basic Venture, 368 pages.

最近気になった二本目の書評はエコノミスト誌に掲載された記事で、ここでもまた世界経済のグローバル化に対し懐疑的な視線を向ける一冊が紹介されている。

本の題名は『破滅のループ』“The Doom Loop” で著者は現在コーネル大学で経済学の教授を務めるエスワー・プラサド。前職は国際通貨基金の調査局でFinancial Studies Divisionのトップをつとめていたとのこと。エコノミスト誌の記事によると、近年の中国やインドの台頭、そして西欧諸国の力の減退など、国際的なバランス・オブ・パワーが変化したことにより、世界経済が、混乱をもたらすエンジンへと変貌を遂げてしまった、と本書は指摘しているとのこと。その結果、「経済、国内政治、そして地政学間のフィードバック・ループがあらゆる面で破壊をもたらすようになり、制御不能な状況になりつつある」とのことである。

そのような負の連鎖をもたらす現象にはどのようなものがあるのだろうか。エコノミスト誌が本書の議論をなぞる形で指摘しているのは次のような例である。

たとえば、グローバリゼーションにより拡大した国際的な資本や貿易の流れが、国際政治上ライバル関係にある二国間で拡大すれば、一見その二国間の関係改善につながっても良さそうにみえる。なぜなら、中国に投資する米企業は米中関係が緊張して利益を上げるチャンスを失いたくないだろうから、対中関係を良好に保つよう米政府に働きかけるはずだからである。だが実際に起きた事は、政治家が緊張を煽るような言動を繰り返す中で、米国企業は中国から手を引きつつあり、資本と貿易の流れは地政学的境界線に沿う形に変化しつつある、とのことである。また、国が補助金を出して企業の本国回帰を促したり、関税により外国企業との競争から保護しようとするなら、企業側にはそのような国内産業保護政策の強化を自国政府から引き出すために、相手国との緊張をむしろ煽る側にまわるインセンティブが働く、とのことである。

本当に『破滅のループ』と言えるような事態がが発生しているのだろうか。著者のより詳細な議論に触れてみたい気がする。

書評③  ‘Heartland’ Review: When Larry Bird Took Flight Book Review by Jack  McCallum, Wall Street Journal online edition, Feb. 25, 2026.

紹介されている本: Heartland: A Forgotten Place, an Impossible Dream, and the Miracle of Larry Bird, By Keith O’Brien, Atria Books, 384 pages

三本目の書評は、1980年代から1990年代にかけて全米バスケットボール協会(NBA)で活躍し、今もNBA史上最高の選手の一人と評されるラリー・バードの伝記的作品を取り上げた、ジャック・マクマラン氏の記事で、最近ウォールストリート・ジャーナルに掲載された。

ラリー・バードについては既に複数の伝記本が出ていて、果たしてこれまでに書かれてこなかった内容がまだ残っているのだろうか、という疑問が湧く。マクマラン氏によると、本書が扱う内容はバードの幼少期から、彼が所属していたインディアナ州立大学のチームが全米大学体育協会(NCAA)の全米バスケットボール選手権の決勝戦でマジック・ジョンソンのミシガン州立大学に敗れた直後の時期まで、とのことで、過去の伝記本の内容の中心を占めたバードのNBA時代の話は守備範囲外のようだ。

その分、バードがバスケットボールの強豪校として知られるインディアナ大学を退学した後に、インディアナ州立大学のコーチらが勧誘しようと躍起になっていた頃の様子など、若い頃のバードと彼を取り巻く人と環境に焦点が当てられているようだ。

著者のキース・オブライアンは本書を執筆するためにバードにインタビューを申し込んだものの断られたそうだ。ただ、書評記事を執筆したマクマラン氏曰く、主人公に取材を断られた方が伝記本にとって良い場合もある、とのことだ。オブライアン氏のような熟練したライターはこれまで書かれてこなかった内容を探しあてることに長けている、とマクマラン氏は指摘している。どのようなエピソードを本書が取り上げているのか、気になるところだ。


[1] 題名の邦訳は、自分の解釈にもとづく訳。他の二冊も同様。

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